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薬草クラブ オオバコ

オオバコ 車前子(種子)、車前葉(花期の全草)Plantago asiatica L.

学名:Plantago asiatica L.のPlanntago:plannta(ラテン語の「足の裏」)+ago(連れていくる)。葉の開いた形に由来。Asiatica=asiaticusu(アジア)に分布する。

和名:オオバコは葉が大きいことに由来します。

漢名:車前、於保波古、大葉子

中国名:車前

別名および方言:オンバコ・オバコ・カエルバ、當道(トウドウ)・牛遣(ギュウイ)(馬や牛の足跡などのくぼみに生えやすいことから名付けられた。)

 

アジア全域。各地の原野、路傍に見られます。

 

薬用部の採集、保存

種子:秋に結実した花茎を切り取り、広げた新聞紙の上で天日乾燥。ぬらさないように保存。

全草:花期に全草を採取し、水洗いをして天日乾燥。萎びたら強い日光をさけ陰干し。

 

種子と全草:

・オオバコの種子(車前子)

[気味]甘、寒

[帰経]肝・腎・小腸・肺

[主治]むくみ・尿量減少・尿が濃い・排尿困難・下痢・便秘、目の充血・視力低下、痰、咳(清熱利水・滲湿止瀉・清肝明目・化痰止咳)。

 

・オオバコの葉(車前葉)

[気味]甘、寒

[帰経]肝・腎・小腸・肺

[主治]むくみ・尿量減少・尿が濃い・排尿困難・下痢、咳き・痰、鼻出血・血尿・皮膚化膿症(清熱解毒、滲湿止瀉・涼血解毒、鎮咳袪痰)。

 

熟した穂をてのひらでもみ、息を拭きかけ殻を飛ばすと種子だけが残ります。これをけんちん汁をはじめ、みそ汁に入れると風味がよくなります。

 

薬理作用

①利尿作用 種子に利尿作用があり、水分の排泄を増加させるほかに、塩化ナトリウム、尿酸の排泄も増加させます。

②鎮咳・袪痰作用 全草から得たプランタギンには鎮咳・袪痰作用があります。

③その他 粘液質の多糖体には、血糖降下、抗補体作用があります。

 

薬効

種子は、利尿・止瀉・鎮咳・袪痰薬、眼病、便秘ににも煎服し、種子は眼底出血の予防にもなります。

全草は、鎮咳・袪痰・利尿・強壮・止血薬として用います。胃炎・十二指腸潰瘍・動脈硬化にも応用されます。

 

効用

・せき止めに:乾燥した種子(車前子)1日量5~10gに水200㏄を加えて1/2量に煎じ、食後に服用する。

・むくみのときの利尿に:乾燥した全草(車前草)1日量5~10gに水300㏄を加えて1/2量に煎じて、食後3回に服用。

・はれものに:生の葉を水洗いし、火にあぶってやらわかくなったものを、患部にはって、上からガーゼに軽く押さえる。

漢方薬 牛車腎気丸、竜胆潟肝湯、明朗飲

 

オオバコを食べる

熟した穂をてのひらでもみ、息を拭きかけ殻を飛ばすと種子だけが残る。これを、けんちん汁をはじめ、

みそ汁に入れると風味が出る。団子などの外側にまぶして焼くと風味がある。軟らかい葉をお浸し、天ぷらにする。

堅い葉は乾燥して粉末にし、生はミキサーでドロドロにして冷蔵庫保存し。ゼリーやホットケーキに、団子を作って汁の実に。葉を食用にするのは、よく茹でて細かく切り油で炒め、塩・胡椒をふって味付けする。また醤油で煮つけるか、砂糖と味噌で煮合わせる。

 

<参考資料>

◎江戸の香川修徳著『一本堂薬選』に「尿路の働きをよくして排尿困難、排尿障害を治す。胎児の娩出を滑らかにし、腫れを除く」と述べている。当時の本草書には、車前子を粉にして酒か湯で飲むと便秘にいいとか、車前子の末を一匙ずつ用いると膀胱炎にも効くと書いてあり、用途はかなり広かったらしい。

民間療法で車前子を煎じて鎮咳・去痰に用いたりする。葉を軽くあぶり、これをもんで腫物の吸い出しに使う。

 

◎『神農本草経』に「気瘤(気が滞って小便が出にくく、下腹が張る病気)を治し、痛みを止め、水道、小便を利し、湿痺を除く、久しく服すれば身を軽くし、老衰を防ぐ」とあり、消炎・利尿・止瀉薬として、夏季の下痢、眼病・膀胱炎・血尿などに、また鎮咳・去痰薬として用います(車前葉も同じ)。

民家では、車前草の持つ利尿作用を利用して、尿道炎・膀胱炎・膀胱結石・睾丸炎・頻尿・血尿などの泌尿器疾患に使われます。利尿作用は単に水分の排泄量を増やすだけでなく、尿素・塩化ナトリウムや尿酸などの排泄量を増やす。

津田玄仙は『療治経験筆記』に「水腫で小便が通ぜず、諸薬で効き目がない時に、車前葉をつき砕き、そのしぼり汁50mlに半量の焼酎を混ぜて空腹時に頓服する。一週間以内に効が現れる。」と記しています。

他の古書にも「小便に鮮血交じり出ずるに車前葉の絞り汁に蜜(18ml)を入れて煎じ温服する」とあります。

また他に、白内障・麦粒腫・痔の出血・鼻血・耳痛・黄疸などにも応用する。

車前子は車前葉と同じ効がありますが、主に咳止めに用います。車前子には粘液質が含まれていて少々飲みにくく、通常は少量の甘草を混ぜて煎服します。

『和漢三才図会』に「車前子は利尿剤としてよいが、単用で久しく服するものに非ず。」とあり。

 

薬効:咳・下痢・利尿・膀胱炎・視力増強・淋病などに車前子5~10gを煎じて1日3回分服(甘草1gを加える)。

喘息、関節腫痛、眼の充血、胃病、心臓病、疝気に全草を茶剤として服用する。

歯痛に、生の葉に天然塩を加えてもみ、痛む歯でかみしめる。

止血に葉をもんで患部につける。

ものもらい、打撲、火傷、腫れ物に葉をあぶり患部にあてる。肩こりに葉2~3枚を天然塩でもんで貼る。

陰部の痛み、痒みに車前子または車前葉を煎じ、煎じ汁で洗う。

 

◎整腸・利尿作用もあり、煎じて服用することによって全身に作用し、虚弱な体質を元気にします。特に、虚弱な子供の体質改善によいといわれます。

『神農本草経』には「主に下腹が張る気癃の病(尿の出にくい病気のこと)の痛みを止め水道や小便を利し、痛みやしびれを除き、久しく服すると身を軽くし、老に耐える」とあります。中国の後漢時代のころに書かれた本ですが、昔から利尿の効が認められていたことがわかります。

オオバコを八ツ目うなぎとともに煎じて服用すると、視力減退、そこひに効き、またケツメイシ、カンゾウを加えて煎服すると胃腸病に有効です。またオオバコの若葉をみそ汁に入れたり、天ぷらにしても美味なものです。

 

◎民間療法として汎用され、咳止めや痰切り薬とするほか、常用することによって動脈硬化の予防薬にもなります。

成分としてプランテノール酸、コハク酸、アデリン、コリンなどが知られています。

オオバコは日本や中国だけでなく、世界中で広く薬用とされています。イギリスでは解熱剤として、イタリアでは葉の煎汁を止血剤、洗眼薬として、インドでは根や種子を強壮、解熱、下痢止めの薬として用いています。

オオバコは生の葉をあぶって、腫れ物や麦粒腫に貼ると膿を吸い出す作用で早く治ります。

 

車前草(チョオチェンツァオ)の昔話

オオバコのことを中国では、車前草といいます。

では、なぜ車前草と呼ぶようになったのでしょうか。それについては、次のような話が伝えられています。

 

漢の時代に、馬武(マーウー)という将軍がいました。

ある年の六月、長いこと日照りがつづき、田はひびわれ、畑はかわききって、作物という作物はみな枯れてしまいました。

ちょうどそのころ、馬武将軍は戦いに敗れ、兵をひきいて人煙(じんえん)まれな荒野を敗走中でした。そこでは食べものも水も欠乏していて、大勢の兵士が飢え死にしました。生き残った兵士は飲み水にことかき、大方のものが膀胱の湿熱症をおこしていました。つまり、下腹が張り、血尿がでる病気にかかったのです。とうぜん馬も同じような状態でした。

 

さて、馬武将軍には、馬飼いの兵士がいて、三頭の馬と一台の馬車をあずかっていました。見ると、三頭の馬も血尿を出して元気がありません。馬飼いの兵士は気が気ではなかったのですが、どうするてだてもありません。しかし、数日してふと見ると、馬の尿は正常にもどり、いくらか元気がでてきたようです。

「何を食べたのだろう?」

馬飼いの兵士は、しきりに首をかしげ、馬のまわりを注意深く見て歩きました。すると、車のおいてあるあたりに、豚の耳によく似た草が生えているのを見つけました。三頭の馬はその草を食べていたにちがいありません。

「そうか、この草で血尿を治したのだ」

馬飼いの兵士は、さっそくその草を摘みとって煮て食べました。何日かすると、はたして血尿はとまりました。それで、すぐさま将軍のもとへかけつけ、馬武将軍に報告しました。将軍は大そう喜び、全員にその草を摘んで煮て食べるよう命じました。こうして数日のうちに兵士も馬もみな元気をとりもどしたのでした。

 

「その草はどこで見つけたのか?」

馬武将軍は、馬飼いの兵士にたずねました。

馬飼いの兵士は将軍を車の置いてあるところへ案内し、生えている草を見せました。

「そうか、車の前にあった草だったのか」

こんな経緯(いきさつ)があって、その草は、車前草(チョオチェンツァオ)という名で呼ばれるようになったということです。しかし、葉の形が豚の耳によく似ているところから

猪耳草(ヅゥアルツァオ)と呼んでいる人もいます。ちなみに中国では、豚のことを猪(ヅゥ)といいます。

 

オオバコの生きる道

・たくましい雑草の代表

人や車に踏まれる場所で頑張っている多年草。山に迷った時も、運よくこの草に会えば、道は必ず人家へと通じている。

葉には5本の丈夫な脈があり、踏まれても容易にはちぎれない。根も四方八方に広がり、横方法からの外力にも耐えて大地にがっちりしがみつく。

花茎には小さな花が集まり、たくさんの実をつける。種子は2mm弱の平たい楕円形で、湿るとネバネバし、靴底やタイヤにへばりついて新天地に運ばれる。

絶えず踏まれる激しい環境は、いいかえれば、ほかの植物たちと競争せずに済む平和な世界。

 

・雌雄の機能を使い分ける

花は花びらをもたず、色の地味で目立たない。花粉を風に運んでもらう「風媒花」なのです。

花茎の上のほうにつく花は1本の白い雌しべを伸ばし、下の方につく花は4本の雄しべを突き出している。

花は咲くとまず雌しべを出し、あとから雄しべを出すことによって、性の機能をたくみに使い分けている。

性の成熟をずらすのは、同じ花の花粉で受精する近親交配を避けるために進化した機構である。

1本の花穂の上から順番につぼみ・雌性期の花・雄性期の花・実・が並ぶことになる。

雄の花が雌の花の下に位置するのは、同じ株の雌の花に花粉が降り注いでしまうことを避けるための工夫である。

 

・タネにも巧妙な仕掛けが

オオバコ属の種子は外皮の部分にプランタザンという粘液質の繊維成分を含んでいる。この成分は、多量の水を吸収してゼリー状に膨潤する性質を持つ。

これが接着剤の役目を果たすので、種子が靴やタイヤにくっついてうまく運ばれる。

また、粘液質が雨水をたっぷり含んで蓄えておく事ができるので、グランドや砂利道の乾いた場所でも、幼い芽を出し育つことができる。

(多田多恵子著『したたかな植物たち』)

 

参考文献

・(橋本竹二郎著『目で見る薬草百科』)・(鈴木昶著『薬草歳時記』より)・(神戸中医学研究会編著『中医臨床のための中薬学』)・水野瑞夫監修・田中俊弘編集『日本薬草全書』)・(『薬草カラー図鑑』より)・(繆文渭著『中国の民話』)・(青田啓太郎『草根木皮』)・(池田好子著『よく効く薬草風呂』)・(多田多恵子『種子たちの知恵』)