オオカラスウリ栝楼根・栝楼仁・天花粉 Trichosanthes bracteata Voigt
寄贈者名・産地・年月日・経歴:2001年、華南中医大学
・栝楼根
[気味]甘・苦・酸、微寒
[気味]肺・胃
[主治] 消渇、身熱、煩満、大熱を主り、腫毒を消し、津液を行らす(養胃生津・止渇、清肺潤燥、消腫排膿)。
・栝楼仁
[気味]甘、寒
[帰経]肺・胃・大腸
[主治]慢性の咳。胸痺を主り、心肺を潤し、咽喉を利し、胸膈の欝熱を去り、痰結を滌し、治嗽の要薬(潤肺化痰・潤腸通便)。
・栝楼皮
[気味]甘・苦、寒
[帰経]肺・胃
[主治]熱性の咳嗽。肺熱の咳、粘稠で出にくい痰、胸膈痞満(清化熱痰・利気寛胸)。
・天花粉
[気味]甘・苦、微寒
[帰経]肺・胃
[主治] 皮膚の炎症を取り潤す働きがある。汗疹予防や赤く炎症の皮膚に用いる。
瓜樓根(かろこん) 渇を留めて 乳(ち)を出(いだ)し 小便しげく 通ずるをとむ
瓜樓根 鉄気を凶ぞ 能(よく)あらひ 竹刀(たけかたな)にて きざみほすな也
瓜樓仁(かろにん) 嗽(しはぶ)き痰や 肺気をも よくうるをして 胸かゆきにも
瓜樓仁 鉄気を凶(いめ)ば 日にほして 土器(かはらけ)に入れ 炒(い)りてつかふぞ
天花粉(てんくはふん) 渇(かは)きを止(とめ)めて 毒(どく)をけし 膿(うみ)をはらひて 熱痰(ねつたん)をさる
天花粉 そのままもちひ 火(ひ)をば凶(いめ) 水(みづ)に曝(さらし)て つかひてもよし
((橋本竹二郎訳『新編和歌能毒』)
根の外皮を取り去って輪切りにし天日乾燥したものが生薬の「栝楼根」、熟した果実を天日乾燥した物を生薬の「栝楼仁」といいます。
漢方では『神農本草経』の中品としておさめられ、栝楼根は、消渇、身熱、煩満、大熱を主り、小便利を止め、膿を排し、腫毒を消し、津液を行らす目的で栝楼桂枝湯、柴胡清肝散などに配合されています。また栝楼仁は胸痺を主り、心肺を潤し、咽喉を利し、胸膈の欝熱を去り、痰結を滌し、治嗽の要薬となり、栝楼枳実湯に配合されています。
カラスウリの実の皮である栝楼皮は清化熱痰・利気寛胸に働き、熱性の咳嗽に効果があり、種子の栝楼仁は潤肺化痰・潤腸通便に働き、慢性の咳嗽に効果があります。
栝楼仁を乾燥させ、ほうろくで炒り、蜂蜜に2~3ヶ月漬け込み、適時服用すると慢性の咳や嚥下困難による肺炎の予防に効果があります。
「天花粉」は、根の皮を去り、生の物から澱粉を取り出したもので、この天花粉が登場したのは元禄の頃のようです。白い雪を連想させるので「天花粉」と書くのだそうです。
この粉は水分をよく吸い取るから汗止めに応用され、皮膚の炎症を取り潤す働きがあるので汗疹予防や赤く炎症がある時にとてもよく効きます。
カラスウリの皮は清熱化痰・利気寛胸に、
カラスウリの実は潤肺化痰・潤腸通便に、それぞれすぐれている。
天花粉は実とほぼ同じであるが、滑潤の効能は弱い。
全カラスウリは皮・仁の両方の効能を兼ね備える。
栝楼は甘寒潤降で、痰濁を下降させる特徴があり、上は肺胃の熱を清して滌痰導滞し利気寛胸・散結にも働き、下は大腸を潤して通便し、さらに消腫散結の効能を持つ。それゆえ、痰熱欬嗽・胸痺・結胸・腸燥便秘および肺癰・腸癰・乳癰などに適用する。
胸痺《脾消の一種で、胸部が塞がり胸から背にかけて痛み安臥できず、喘息・咳唾・息切れを伴う》
結胸《心下部が痛み、按ずると硬く充満しているのを特徴とする病証》
肺癰《慢性痰と咳を伴う病態、肺壊疽、肺腫瘍、肺結核、肺化膿症など》
腸癰《腸に生じるの癰のこと、虫垂炎または虫垂突起炎》
乳癰《乳腺炎に相当する疾患》
天花粉(てんかふん)
①「玉露霜」は、新鮮な天花粉を水中で細粉にし滓を除いて澄ませ、水を何回か替えたのち得た粉末であり、性味・主冶は天花粉と同じであるが、生津潤燥の効果はすぐれている。それゆえ、消渇のものに摂食させるとよい。(神戸中医学研究会編著『中医臨床のための中医学』)
②根を用いて粉と作れば、潔白美好なり。之を食すれば大いに虚熱の人に宜し。(李時珍著『本草綱目』)
カラスウリの実
「古方薬議」浅田宗伯著) 味苦冷、胸痺を主り、心肺を潤し、咽喉を利し、胸膈の欝熱を去り、痰結を滌し、治嗽の要薬となす。
『本草綱目』(李時珍著)子には、炒めて用い、虚労口乾を補い、心肺を潤し、吐血・腸風(腸炎や出血性大腸炎の出血)瀉血・赤白痢・手面しわを治す。
カラスウリの根
[古方薬議] 味苦寒、消渇、身熱、煩満、大熱を主り、小便利を止め、膿を排し、腫毒を消し、津液を行らす。心中結痼の者は、是に非ざれば除く能わず。
夕暮れの薬草苑「神薬才花苑」をひとり散策していると、世にも珍しいカラスウリの花に出遭います。
風に揺られ異様な雰囲気の花弁の縁が糸状に長く伸びる花を咲かせます。時が訪れると一糸乱れずに展開していき、短時間で完全に開ききります。開花が始まるのは日が落ち周りが薄暗くなる頃で(8月下旬では7時頃)、翌朝にはしおれてしまう一日花です。
(雄株)18:25→ | 19:05 → | 19:13→ | 19:15→ | 19:23 |
初めて会ったのは、種を蒔いて2年目の事でした。次の日、8時頃、再び薬草苑を訪れると、その妖精のような花に会う事が出来ませんでした。
カラスウリの花は夕刻より早朝にかけて咲く「宵待草」なのです。
雌雄異株で、雌花は雄花の半分以下の大きさです。9月下旬ころから、雌株に朱色の直径10cmより大きな楕円形の実を付けます。
(雌株の花) |
10月下旬になると、半分くらいの葉が落ち淋しくなった雰囲気の中に、枯れかけた蔓の所々に真っ赤な実がぶら下がっています。
晩秋、葉が落ちてしまった頃に根を掘りあげ、皮をむき細かく刻み、それをミキサーにかけて細かくします。
これを日本タオルなどでこします。上澄み液が綺麗になるまで数回くり返し、一晩そのままで放置します。
上澄み液を捨て、器に白い粘液質が残ります。これを天日乾燥し、乾いたらミルで粉末にし、湿らないように保存します。
中国で一番の大河は長江ですが、その下流の南岸一帯を江南と呼んでいます。
むかし、そのあたりに洞穴(ほらあな)のたくさんある山がありました。うっそうと葉を茂らせた老樹が立ち並び、いつも霧がたち込めています。人びとの話では、その山には仙人が住んでいるということです。
さて、その山へよく柴刈りにいく木こりがいました。ある昼さがりのこと、木こりは天秤棒(てんびんぼう)で柴(しば)を荷なって家に帰る途中、喉(のど)がからからに乾いたので、泉をさがしに行きますと、ある洞穴の前にでました。あたりには太い幹の、見上げるばかりの老樹が何本も立ち並び、洞穴の前にはこんこんと水の湧き出る泉がありました。木こりはさっそく喉をうるおしました。その水のおいしいことといったらありません。喉の乾きを十分にいやした木こりは、木蔭にある平らな岩の上に横になって、ひと休みをきめました。
疲れが出たのが、木こりが気持ちよさそうにうとうとしていますと、夢うつつに話声が聞こえてきました。見ると、向かい側の木の下に、老人が二人腰をおろして何やら話をしています。一人は白いひげを、もう一人は黒いひげを生やしていました。
(こんな山奥に住んでいるのは、いったい誰だろう。もしかしたら仙人かもしれんぞ)
と思い、身じろぎもせずに、じっと耳をすませていました。
黒いひげの老人は言います。
「今年は、わしらの洞穴で大きな金(きん)の瓜が二つもなったわい」
すると、白いひげの老人が言います。
「しーっ、声が高いぞ。向かいに木こりが寝ておる。聞こえでもしたら盗まれてしまうわ」
「そんな心配はいらん。聞こえたとしても洞穴に入れるものかね。七月七日の午(うま)の刻(昼過ぎ)に、ここに立って『天の門開け、地の門開け、あるじが金の瓜を採りにきたぞ』と大声で叫ばんかぎりはな」
「よけいなおしゃべりはするな。それより将棋でもさそうや」
と、白いひげの老人が言っています。
木こりは、
(こりゃ、いいことを聞いたぞ)
と大喜び。体を動かしたとたんに岩の上からごろりと地面に落ちて、目がさめました。木こりはあたりを見まわしましたが、仙人の姿はどこにもありません。やはり夢を見ていたのです。木こりはがっかりして、天秤棒を肩にすると、家路を急ぎました。しかし、黒いひげの老人の言葉は、いつまでも頭からはなれず、七月七日には、老人の言ったことが、うそかまことか試してみたいと思うようになりました。
七月七日がやってきました。木こりは胸をわくわくさせながら、山を登って行きました。そのうちに午の刻になったので、
「天の門開け、地の門開け、あるじが金の瓜を採りにきたぞ!」
と叫びました。すると突然がらがらと大きな音がして、石のとびらが開き、金色(こんじき)に輝くまばゆいばかりの洞穴が目の前に現れたではありませんか。見ると、緑色の蔓(つる)の上の方に金の瓜が二つなっていました。木こりはそれを採ると、一目散に山をおりました。
しかし、家に帰ってよく見ると、それは金色の瓜ではなくて、その辺りにいくらでもあるごく普通の瓜でした。木こりはすっかり気をおとし、瓜を土間へ放り出しておきました。
それからまた何日かたって木こりは再び山へ柴刈りに行き、例の洞穴の近くの岩の上でまたひと休みしました。不思議なことに、目を閉じると間もなく、先日の仙人が木の下へ姿を現わしました。
白いひげの老人が恨めしそうに言います。
「お前さんが余計なおしゃべりをしたばかりに、金の瓜はとうとう盗まれてしもうた」
すると、黒いひげの仙人も負けていません。
「心配しなさんな。使い道を知らんのだから。それに本物の金でもあるまいし」
「あれは得がたい薬だ。金よりも尊(たっと)いものなのだ」
「皮が橙色になるまで乾かしておけば、肺病にも効くし、熱ざましにもなる」
そのとき、木こりはぱっと目がさめました。そして駆けるようにして家へもどるとあの二つの瓜をさがしました。惜しいことに瓜は腐りかけていました。そこで種を取り出してよく乾かし、あくる年の春になるのを待って庭にまいたのです。丹精(たんせい)したかいがあって、夏には大きな瓜がなりました。木こりはその瓜を乾かし、長年咳や痰で苦しんでいる人にあげたそうです。
ちなみに中国では、むかし、カラスウリのことを瓜楼といいました。それは、この瓜の蔓を高い棚の上にはわせて栽培するところからきたのでしょうか。「楼」とは高い建物ややぐらをさして言います。しかし、いまでは瓜楼とは書かずに、瓜蔞とか栝楼とかの文字を当てています。