ウツボグサ(シソ科)夏枯草Pranella vulgaris L.subsp.asiatica(Nakai)Hara
[気味]辛・苦、寒
[帰経]肝・胆
[主治]目の充血・腫脹・疼痛や頭痛・めまい・イライラ、リンパ節結核・甲状腺腫・乳腺腫・耳下腺腫、膀胱炎、尿道炎、葉汁を塗布すると打撲に(清泄肝火・清熱散結)
花穂が矢を入れる靫(うつぼ)に似ているというのでこの名があります。花期は5~7月ですが、夏の盛りになると花穂が急に枯れて暗褐色の姿になるので、夏枯草という漢名がついています。薬用部は花穂・葉茎・根で、一般には花穂が使われますが、全草の方が効果が大きいようです。
花穂は褐色になりかけた頃に採集し、乾燥します。
効能:花穂や全草を服用したり食べると、リンパ液の流れがよくなる。利尿、消炎薬として、膀胱炎、腎炎、水腫、るいれき、淋病、尿不利、口内炎、扁桃炎、結膜炎に応用される。
ウツボグサは生薬としては花穂が主体であるが、痛みが強い場合は全草を利用する方がよい。全草には麻酔作用もあるが、花穂は鎮痛作用のみで麻酔作用は少ない。
・口内炎・扁桃腺炎:3~5gを煎じ、その煎じ汁でうがいをくり返します。
・利尿・腎臓病・膀胱炎:葉茎20gを煎じて食後にお茶がわりに飲みます。
・胃病・ヒステリー・種々のでき物にも効きます。
・糖尿病:花穂10gを煎じて飲みます。
・ルイレキ:全草15gを煎服します。長引いてなかなか治らないものに効果があります。
・結膜炎などの眼病:全草20gを煎じて飲むと共に、煎じ汁で眼を洗うと効果的です。冷蔵庫に入れ、1~2日で使い切ること。
・便秘・利尿:ウツボグサとドクダミを同量混ぜ合わせて煎じ、お茶がわりに飲みます。
・淋病:葉茎20gとハブ茶20gを煎服すると卓効があります。
・イボ:ハトムギとウツボグサを煎じて服用。
森立之復元本『神農本草経』下品に「夏枯草。一名夕句(せきく)、一命は乃東(だいとう)。味苦・寒。川谷に生ず。寒熱・瘰癧・鼠瘻・頭瘡を治し、癥を破り、癭・結気・脚腫・湿痺を散じ、身を軽くする」(松本一男編)と収載。
中国の清時代末期のころの話ですが「夏枯草を清涼剤として三伏の際、該煎液を入れた瓶を街路に置き、通行人に接待すという」とありました。三伏とは夏至が過ぎた三度目の庚の日を初伏(七月一二日)、四度目を中伏(七月二二日)、立秋後初めての庚の日を末伏(八月一一日)と呼び、これらの総称で最も暑い時期の代名詞。この季節汗ばかり出て、とかく小便が遠のきます。汗を出すことは良いこととはいえ、小便渋滞は身体を損ねることにつながります。
日本人が夏枯草に薬用価値を知ったのは奈良時代のころ。唐時代の「新修本草」を翻訳し、漢名で書かれた薬物名です。
・若葉をサラダにあえ、スープやシチューに入れて食用にするといいます。
・若葉・若茎を生のまま天ぷらに、塩をひとつかみ入れて熱湯で茹でて、よく水に晒し、お浸し、油炒め、ゴマ和え、芥子和えとする。食べるとスッキリとし朝を迎えることが出来るようになる。
・花穂は薄めの衣で天ぷらにするか、唐揚げにする。花穂から花だけをとり、熱湯をくぐらせ甘酢、二杯酢三杯酢で赤く染まった花を味わうのもよい。
(繆文渭著『中国の民話』)
むかし、ある村にルイレキ(結核性の頸部リンパ腺慢性腫脹)を患っている老婦人がいました。首のあたりがひどくはれて、傷口からは膿が流れでていました。まわりの者からは、あんなようすじゃとても治る見込みはあるまい、と言われ、老婦人の息子は気が気ではありませんでした。ちなみに、その息子というのは俗に「秀才」と呼ばれている知識人でした。
ところで中国にはむかし、病人を診たり薬を売ったりしながら、あちこちを旅して歩く医者がいましたが、ある日老婦人のところへもやってきたので、診てもらうことにしました。
「山に生えている薬草で治せるかも知れない。さがしてきてあげよう」
医者が摘んできたのは紫色の花をつけた野草でした。そして、その花の穂を切り集め、煎じて老婦人に飲ませました。数日もすると、膿はぴったり止まり、傷口も次第にふさがっていきました。老婦人は天にものぼらんばかりの喜びようで、医者を家にひきとめ心からもてなしました。医者の方も居心地がよかったのでしょう。遠慮せずに寝泊まりし、昼間は薬草を採ったり、薬を売ったりしていました。息子も医者からいろいろな話を聞くうちに、薬草に興味をもつようになりました。
それから一年たちました。医者は国もとに帰りたくなって、二人に言いました。
「長い間お世話になりました。ついては、お礼をさしあげたいのだが…」
「なにをおっしゃいます。先生は母の病気を治して下さった恩人ではございませんか。そんなことはおっしゃらないで下さい」
「ではお礼にもうひとつ教えてさしあげよう」
医者は息子と山へ行き、楕円形の葉と、紫色の花をつけた野草を摘んで言いました。
「これはルイレキによく効く薬草です。だが、秋風の立つころになると枯れてしまうから、それだけはよく覚えておくように…」
医者が国もとに帰って二ヵ月ほどたち、その年の夏も終わりに近づきました。
折から県のある役人の母親がルイレキにかかったので、役人はあちこちにおふれを出して、ルイレキを治せる医者をさがしていました。息子は、すぐさま役人のもとへかけつけました。
「お役人さま、よく効く薬草を知っています」
息子は案内に立って山へ登りましたが、例の薬草はどこにもありません。息子は県の役人をたぶらかしたというかどで、気の毒にも割れ竹で五十回もたたかれる杖刑に処せられました。
それからまた夏がやってきました。
ある日のこと、医者がひょっこり訪ねてきました。息子は医者をつかまえると、例の薬草がみつからなかったこと、そのためにお仕置きをうけたことなどを話してきかせました。
そして、二人は山へ行きました。すると紫色の花をつけた薬草がいたるところに生えているではありませんか。
「おかしいなぁ。先生がお出でになると姿を現わすんだから…」
「だからよく覚えておくよう言ったはずだが。夏を越すと枯れてしまう。摘むなら今のうちだよ」
息子は、その言葉を聞いてふっと記憶がよみがえったのでした。医者の言葉をしっかりと心に刻みつけておかなかったばかりに、とんだ目にあったのでした。
そこで二度と忘れないように、夏枯草(シャーグーツァオ)という名をその薬草につけたということです。