ウイキョウ(セリ科)Foeniculum vnlgare Mill
[気味]辛、温
[帰経]肝・腎・脾・胃
[主治]寒疝の睾丸偏墜(へんつい)・婦女の小腹冷痛、脾胃虚寒の脘腹脹痛・嘔吐・食少い・母乳不足(疏肝理気・温腎散寒・温脾開胃に・理気開胃・調中止嘔)
ウイキョウはセリ科の多年生草本。英語ではFennel、中国語では小茴香と記されます。地中海沿岸地方の原産と謂われ、中国を経て日本へ伝わったのは江戸時代。
紀元前490年の第一次ペルシャ戦争で、ペルシャ軍がマラトンの地に上陸したが、これをミルティアデスの率いるアテナイ軍が撃滅(マラトンの戦い)。このときアテナイ軍の一兵士が、首都アテネに休むことなく走り続けて勝利を伝えると、その場にばったり倒れ息絶えてしまった。そのマラトンの原野にはウイキョウが一面に生い茂っており、この地はウイキョウのふる里でもあり、オリンピックのマラソン競技の発祥の地ということになります。花言葉はこれらの故事により「力」または「称賛される価値あり」となったとか。
茴香の実は、古代ローマで強精用の食物として剣闘士に愛用されたといい、スペインでは闘牛士が牛を倒した後には、力の象徴としてウイキョウの花環を頭に飾ったという。またカール大帝が好んで若葉を食べ、苑に植えて養育したことからヨーロッパ中に伝播・栽培されることになりました。以来ウイキョウの実は西洋人の身近なものとなり肉料理や魚料理の香味料として欠かせないものとなり、小児を壮健に育てるというので主食であるパンに混ぜて食べたり、ピクルス(ロシア漬)に用いられました。
近年は日本でも良く知られるようになり食品店のスパイスコーナーに「フェンネルシード(Fennel seed)」が売られ、次第に消費が伸びてきたという。主な利用部位は種子のように小さな果実。この実を食べたりワインに浸けたものを飲用すると腹腔に発生するガスを抑え消化を助けるという。
ウイキョウをギリシャ語でマラトン、英語式に発音すればマラソン。デイオスコリデスの薬物書(これを慣例にしたがって『ギリシャ本草』と呼ぶ)に収載されるマラトンの項には「葉を食べると乳の出がよくなる。また実を服用したり、麦湯と煮たものを飲んでも同様の効果がある」「通経剤になり、熱のあるときに冷水で一緒に飲めば胸焼けや吐き気を和らげる。犬に咬まれたときは根を細かく打ち砕き、蜂蜜に混ぜたものを外用すると良い」などの巧能が述べられている。またフックスの本草書によるとこれらに「葉や茎の汁は発病したばかりのそこひを治し、また耳の中に入った虫を殺す。実を煎じて飲むと弱い胃を強くし溜飲を下げる。根を葡萄酒で煎じて飲むと浮腫みや痛みを除くのに役立つ。葉を煎じて飲むと結石を除き、人の精子を増やし、皮下に凝固している血液を除く」の効能を付加しています。
七世紀の中ごろの唐政府によって選された薬物書『新修本草(唐本草と称される)』に「懐香子」として収録。「味辛平、無毒。諸痩(頸にできる腫れ物、るいれき、久しく癒えないカサなど)、霍乱、及び蛇傷を主る」とあり、後代の政和本草「今注」として「一名茴香子亦主膀胱間冷気及育腸気調止痛嘔吐」と記載され、ほぼ今日的な使い方になります。
また「茴」は漢音でクワイ、呉音でウェ、唐音でウイとなり、現在の日本称呼のウイキョウ(茴香)になります。
一方中国には大茴香なる香辛料がある。中国南部、台湾、ベトナム北部から産出するシキミ科の八角茴香(Ilicium verumの果実)別名八角またはスターアニスがこれで、日本に産するシキミの実(注意=シキミの実にはアニサチンやシキミニンなどの痙攣毒を含み有毒植物)に似ていて、その未熟果を乾燥させたものが中華料理に欠かせないスパイスの大茴香です。
これに対して西域から到来したセリ科のマラトン(フェンネルシード)を小茴香と呼ぶようになった。大茴香、小茴香ともにアネトールを主成分とする精油を含み芳香健胃、消化、駆風(腹部膨満してガスが溜まるのを除く)作用があり、冷えによる嘔吐や腹痛、食欲不振に用いられています。
日本では深根輔仁『本草和名』(918)に懐香子の漢名が収録。これに対してクレノオモの和名が与えられる。よって九世紀以前に中国を経て渡来という説もあるが疑わしく、江戸延宝(1675)年、貝原益軒が麻布御薬園参観記事に茴香を記しているので、このころが、実質的な渡来年代だと考えられます。
秋、完熟寸前の種子のようにみえる小さな果実を小茴香といい、芳香と甘味があります。唾液分泌と胃液分泌を高めて食欲不振やお腹にたまったガスを取り除く芳香性健胃薬に用いられます。また、フエンネルシードと称し肉料理や魚料理のスパイスやピクルス(ロシア漬)にも用いられます。知り合いの中国の人によると若い葉をギョウザの具にしても美味しいとのこと。試してみましょう。
効能は、「能く中を温め、寒を散じ、胃を開き、肝を疏し、気を理し、痛みを止め、疝症の要薬とする。」とされ、芳香性胃腸薬、駆風・袪痰薬として用いられている。またガスが溜って腹がはり、苦痛な時には、ガスを除く駆風作用があります。
漢方薬の安中散や天台烏薬散に配されています。
幼苗は根ごと食べられるので、そのまま肉料理に添えます。少し成長した物は葉だけをゆがき、おひたしやや油炒め・スープ・ポテトサラダ・オムレツやラーメンの具にも利用する。また、魚の内臓を取り出しこの中にひとつかみ葉を腹の中に詰め込み焼き物にすると、香りが移って魚の臭味が消えます。クッキーを作るとき、生地の上に種子を散らして焼くと、美味しい薬草クッキーが出来上がります。ギョウザに入れても美味しいです。
塊茎:古くは晩秋の塊茎を野菜や薬として用いた。塊茎を薄切りにして、塩揉みしたものをピクルス液に漬ければピクルスとなる。スープに入れてもよい。
効能:煎じて服用すると芳香性胃腸薬、駆風・袪痰薬として用いられている。またガスが溜って腹がはり、苦痛な時には、ガスを除く駆風作用があります。その他に、乳汁分泌促進。種子をかんで口臭予防に、浴剤にすると冷え症によい。