ヤマトトウキ(大和当帰)、当帰(セリ科)Angerica acutiloba Kitagawaの根
寄贈者名・産地・年月日・経歴:1995,4 橋本竹二郎氏
繁殖法:4月種子蒔き。2年目の春、直径が5~8mmほどの物を25cm間隔に植付ける。
[気味]甘・辛・苦、温
[帰経]心・肝・脾
[主治]月経痛、月経不順、冷え症、動悸、健忘、不眠、精神不安、頭痛(補血、抗腫瘍、免疫賦活)(補血調経・活血行気・止痛・潤腸通便)。
この大和当帰は、日本の特産種であり、中部の山間部に自生していたものを江戸時代中期に取り尽くされてしまいました。
文政年間に栽培方法が確立され、天保・明治・大正時代には輸出され好評を博しました。
「奈良路や当帰畑に花一木(ひとき)」(蕪村)という句(1782)があります。
蕪村は、美しく咲くヤマザクラとともに当帰の苗を植えつけたばかりの畑を、おそらく物珍しく好奇の眼(まなこ)で眺めているのでしょう。
蕉村七部集は、文化六(一八〇九)年刊ですから、この頃から当帰の栽培が本格化し大和、山城を中心にして盛んに生産されました。
およそ二〇年後の文政一三(一八三〇)年三月の唐舟入津記録には「唐当帰六〇〇庁上中下無之 日本に代薬有之 是は和方効能宜敷当時用い少候」という記録が残っています。
唐当帰というのは、中国からの輸入品です。
つまりそれまでは、中国産の当帰を使っていたが、近年になって日本産のこれに代わる生薬が開発され、これの方が医薬品「当帰」として効能が優れているので専ら和産が使われ、唐当帰は不要になったといいます。
その後は生産拡大、海外への輸出品としての「大和当帰」が近年までつづいていました。
当帰より 哀れは塚の 菫草(すみれくさ)
(呂丸が京都の去来亭で亡くなったという。彼の故郷出羽では故郷に帰る「当帰」という花が咲いているはずだ。呂丸は当帰の花に囲まれることはできないが、彼の墓に咲くすみれの花は美しく咲くであろう。)
(芭蕉 笈日記・1698刊)
「当帰」は高山植物の名。セリ科の多年草。花は香気が高く、根は乾燥して薬草になるという。この花には、故郷に帰るという意味があったという。
当帰温 血を養ひて 虚を扶(たす)け 疵(きず)瘡(かさ)気(き)をも 愈(いや)し社(こそ)すれ
当帰をば 酒に浸して 芦頭をさり 頭尾(とうび)をわけて 方にまかせよ
(橋本竹二郎訳『新編和歌能毒』)
貧血や婦人病に特に効果があります。当帰の精油は末梢血管拡張・解熱作用があり、水エキスは眼圧・血圧を下げる効果があります。根は鎮静・浄血・強壮薬として用い、婦人病薬として名高く、貧血・冷え性・頭痛・産後の肥立ち・月経不順などによく、又妊娠中の障害を取り除き、流産の予防にも使われます。また鍋物として鶏肉や野菜とともに煮て体を温める。
・鍋物として鶏肉や野菜とともに煮て体を温める。
・トウキ餃子:葉・茎・花を刻んでひき肉と合わせた餃子が美味しい。刻んだトウキは天ぷらやお好み焼きに。
・薬草カレーにぜひ入れたい。
・冷え症の方のお勧めスープ:水200mlに当帰5gと昆布を加えてだし汁を作り、鶏肉100gを加えて煮てアクを取り、おろしたヤマイモを適量加え、塩・こしょう・しょうゆで味つけし、ネギ・紅ショウガを添えます。鶏肉の代わりに牛肉やアサリを使ってもよい。
・根を薄切りにしたものを、天ぷらやきんぴらやバーベキューに。
・地上部を刻んで、しし鍋に入れると、肉の臭味が消える。
・太さが2~3mm程の根を味噌漬けやしょうゆ漬けにしても美味しい酒のつまみになります。
・若葉を天ぷらにしても珍味です。・10月頃に採集した果実を、果実の4~5倍のホワイトリカーに煮つけます。砂糖は果実の3分の1量にします。2ヶ月ほどで熟成します。身体を温め、血行をよくし、便秘に効果があり軟便の方は注意。
・葉を入浴剤として使い、ひび・しもやけ・冷え性に効きます。もちろん、根も入浴剤として利用できます。当帰の根(生薬)を入浴剤として利用する場合は、センキュウ(川芎)を同量使用します。(効能は、冷え症・生理不順・血の道・腰部の冷え痛み・マヒ・女性の更年期・ヒステリーなどの効果があります。当帰の芳香精油成分が気分をリラックスさせ、ふさぎがちな更年期を楽にいします。)
先ず形質の優良な株を見分ける作業、これらの選抜株を採種圃場に植え込みます。これが昨年秋から冬にかけての作業です。今年になってからは、生育を順調に保つために肥料切れのない程度に施肥、そして茎が伸び抽出して花序が見えてきたら、勢いの良い第一花序を摘み除きます。これは採種する痩果の大きさや勢いを均等にするための作業です。
花期が済んで着果してきたら、痩果を食べにくるクサガメの類やアゲハ蝶の幼虫などの虫害を少し取り除きましょう。天気のよい日を見計らって痩果のついた花序ごと収穫します。良く乾燥してから痩果を手で揉みながら丁寧に採種します。採種したものは風通しの良いところに広げるような心持ちで収納します。紙袋やビニール袋に詰めて引き出しなど入れると痩果が蒸れて発芽が思わしくない場合があります。生きているので密封すると呼吸困難に陥るのだと思われます。収納・保存には充分な注意が必要です。
栽培方法:4月中旬、平床にすじ蒔きし、2―3mmほどの覆土をします。
1年目は肥料を必要としません。
翌春、根の直径が5mm―8mm位の物を選び植え付けます。
1cm以上の物は花をつけ易いので、芽を竹ヘラでくりぬいてから植える。
植付け間隔は30cm・覆土は1cm。
追い肥は、暑さが過ぎた9月頃より3―4回行います。
11月頃に掘り起こし、根に土が付いた状態で数ヶ月雨の当たらない軒下で乾燥させます。
2月頃に根に付いた土を洗い落とし、50度位のお湯に通し、刻んでから乾燥させます。
トウキの名の由来は、「正に帰るべし」からきていて、つぎのような故事があります。「ある子供のできない女性が実家に帰っていたところ、仙人に逢い、これを飲めば体がよくなって夫のもとにもどれるといわれ、そのとおりにすると子供ができて幸せに暮らした」。