ミカン(蜜柑) 生薬名:陳皮
ア、ミカン(蜜柑の成熟果実)
[気味] 甘・酸、温
[帰経] 肺・脾
[主治] 蜜柑はおいしいうえに、滋養価値も高く、のどが渇いて痰を吐き出しにくい時や、消渇(現代の糖尿病を含む病気)、嘔吐や吐き気、壊血病(出血性の障害が体内の各器官で生じる病気。ビタミンC欠乏症)などに効き、唾液の分泌を促し、気をおさめる。だが食べすぎや留飲の患者などには良くない。
蜜柑(ミかん)うん大小べんをつうじけり たんをのぞけてすハふきをとむ(ミカンは温、大小便を通じけり、痰を除きて咳を止める)
ミかんこそ気のとくこほりめぐらして ときやくくハくらん治(ぢ)するもの也(ミカンこそ、気の滞りめぐらして、吐逆、霍乱を治するもの也)
ミかんこそすんばくによししょくすゝめ ひゐをおさめて肺ねつをさる(ミカンこそ、急な痛みに良し、食すすめ、脾胃を収めて肺熱を去る)
ミかんこそかハきをとむるものぞかし 蟹とどうしょくきんもつとしれ(ミカンこそ、渇きを止めるものぞかし、蟹と同食禁物と知れ)
(『和歌食物本草』)
ミカンの未熟果実を乾して枳実(きじつ)、皮の乾したものは陳皮(ちんぴ)、青皮(じょうひ)など、夫々に重要な生薬であるが、基源植物は不明。
日本書記、垂仁天皇(紀元前後)には、常世国(とこよのこく)(はるか遠隔地にあると信じていた国)へ「非時(ときじく)の香(かぐの)菓(このみ)を探しに行った田(た)道間(じま)守(もり)が10年を経て「橘子(みかん)廿四蔭、桙(ほこ)橘子(たちばなね)十枝」を持ち帰ったが、天皇は崩御しており、「叫(おら)び哭(な)きて自(みずから)ら死(まか)れり」と記されています。
この橘が、蜜柑や柚子の品種の事始めで、今日の柑橘類の総称名になるのかもしれません。
「橘」は、「タヂマバナ」が転訛して「タチバナ」となった説もあります。(垂仁天皇陵は唐招提寺の近くにあり、その陵を囲む濠(ほり)の中に田(道間守(たじまもり)のお墓が(小さな島)があります。)
蜜柑は、熟した果実はもちろんのこと、皮に内側の繊維質の部分や、実の外側に繊維質のほか種子や葉も薬用として利用されます。
<薬効と使い方>
・熟した果実をハチミツに漬けたり、砂糖漬けにしたものは気を下げ、咳を止め、消化を促進し、嘔吐や下痢、黄疸などにも良く、酒の酔いもさますという。
・料理の口取りに輪切りにした「日の出ミカン」を添えたり、吸物の吸口にユズやスダチの皮を刻んで浮かべるのも、単なる彩りとしてでなく、古代人の知恵が生きているのである。
・お正月につきもののミカンは、冬場になって野菜や果実物が少なくなった時の、ビタミンCの補給には欠かせないものである。
・果汁を手足につけて、荒れた肌を潤す。
・昔から「風邪の予防に良い」と言われるが、これはビタミンCやシネフリンといった風邪の予防に有効な成分が多く含まれているためである。その他にもビタミンAやクエン酸、食物繊維などが多く含まれる。
・果肉にはプロビタミンA化合物の一種であるβ-クリプトキサンチンが他の柑橘に比べて非常に多く含まれている。これには強力な発ガン抑制効果があるとの報告が果樹試験場(現・果樹研究所)・京都府医大などの共同研究グループによってなされ、近年注目されている
・オレンジ色の色素であるカロチノイドは脂肪につくため、ミカンを大量に食べると皮膚が黄色くなる。これを柑皮症という。柑皮症の症状は一時的なもので、健康に影響はない。
・ミカンのしぼり汁はあぶりだしに用いることができる。特に冬には手軽に手に入れることができるため、年賀状に使うこともある。また、ロウソクの炎にむかってミカンの皮を折り曲げ、飛んだ油脂で炎の色が変わるのを楽しむ遊びもある。
イ、陳皮(成熟果実の乾燥果皮)
[気味]辛・苦、温
[帰経]肺・脾
[主治]胸腹脹満・悪心・嘔吐・下痢・食少・消化不良・喘満で痰多い(理気健脾・燥湿化痰)。
陳皮温 痰を除て 咳を留(と)め からえづき止(やめ) 脾胃をやしなう
陳皮をば 古きを用 能洗(よくあら)ひ うら筋(すじ)をさり 日にほし焙る
(橋本竹二郎訳『新編和歌能毒』)
皮膚の荒れ、咳止め、風邪、血行促進、神経痛、リウマチ、芳香性健胃薬のほか鎮咳、しゃっくり止め、痰切り、咽喉の痛み止めなどに用いられる。
また、美容、魚の中毒に効果があり、入浴時に「陳皮」を利用すると、精油成分やビタミンCが湯に溶け込み、肌に刺激を与えるので効果があります。
ビタミンCは肌に潤いを与え、艶を出してくれますし、精油成分には芳香性があるので、気分を爽やかにし、血行がよくなり、湯冷めもしない。
ウ 橘(きっ)紅(こう)(橘皮の内層である橘白を除去した部分・フラベドウ)
[気味] 辛・苦、温
[帰経] 肺・脾
[主治] 外感風寒の咳嗽多痰・肺寒の咳嗽に適している。
エ 橘白(きっぱく)(橘皮の内層の白い部分・アルベドウ)
[気味] 辛・苦、温
[帰経] 肺・脾
[主治] 陳皮と効能は同じで、和中化湿にすぐれている。
<薬効と使い方>
胸苦しさと脇腹の痛み、肋間神経痛には、橘絡、当帰、紅花各3gを黄酒と水で煎じ、1日2回に分けて服用する。
蜜柑の皮の内側の白い筋は、血圧を下げる働きがあり、これも一緒に食べれば高血圧、動脈硬化を予防する。
白い筋にはヘスペリジンが含まれ、動脈硬化やコレステロール血症に効果があるとされている。
ビタミンPと呼ばれるものの一部で、毛細血管を強化し、血管透過性を抑える働きがある。
血中コレステロール値を改善する。血流を改善する。抗アレルギー作用を持ち、アトピー性皮膚炎を改善する。
発がん抑制作用がある。
カ 橘核(きっかく)(種子)
[気味] 苦、温
[帰経] 肝・腎
[主治]消腫、止痛、疝気を治す。そのほかミカンの種子を焙って殻を除き、仁を弱火で炒って黄色くし、香りがしてきたら取り出して乾燥させる。
これを使うときに粉末にして塩とか水を加え、上澄み液を内服する。
これは腰痛、睾丸の腫痛、疝気などの薬で、そのほか他の薬剤と調合して丸薬にする「橘核丸」や、酒で服用する方法もある。
キ 橘(きつ)葉(よう)(葉)
[気味] 苦・辛、平
[帰経] 肝・胃
[主治]咳嗽、肺癰(肺の癰痬のため膿や血の混じった唾をするもの)、急性乳腺炎、胸膈部の痞満、腹部が激痛して便秘。