ベニバナ、紅花(キク科)Carthamus tinctorius L,の管状花
寄贈者名・産地・年月日・経歴:最上紅花:2013、3 今野正明(〒992-0821山形県西置賜郡白鷹町十王1707-1)TEL・FAX0238-85-1883 mail k@shiraraka.jp
薬用部位・開花・採集時期:開花は6月。収穫は7月。
繁殖法:秋または春(13度以下)種子蒔き。20cm間隔に植える。
[気味]辛、温
[帰経]心・肝
[主治] 活血、通経薬。瘀血をなくし、血行を良くする。腫れをとり、痛みを止める(活血通経・祛瘀止痛)
紅花温 産後血あがり 目廻(めまひ)して 悪血(あくけつ)つきず 腹痛によし
紅花をは 其まま剉(きざ)み つかふそや こしらへやうの 別成(べちなる)はなし
(橋本竹二郎訳『新編和歌能毒』)
原産地はエジプトから中央アジア一帯で、中国へは漢の武帝の時代で、紅花が入る前は赤色の染色には茜を用いていましたが、紅花に代わっていきました。
朝鮮を経て古い時代にわが国にはいり、「本(ほん)草(ぞう)和(わ)名(みょう)」(918)には、和名久礼乃阿為(くれのあい)に紅藍花(こうらんか)の漢名を与え、「和名抄(わみょうしょう)」(932)では和名久礼乃阿井に対して漢名を紅藍、俗に紅花を用いるとしている。
ところが、万葉の歌を見ると、これを題材としたものが23首ほどあり、いずれも「くれのあい」から「くれない」に変わっている。
また、中には末摘花を併用しているのもある。歌の内容は衣を紅に染め、それを着て異性の歓心を得ようとするものばかりであるが、このころからすでに衣を染める染料として盛んに用いられていたことがわかる。
漢名は藍花(あいばな)、臙支(えんし)、黄藍、紅花。和名の別名は、呉の国から来た藍という意で「クレノアイ」つまり「クレナイ」、そしてアイが二つ重なるところから「ふた藍」、花が熟(う)れてから摘むので「うれつむはな」または茎の末の方から花が咲き始めるのを、摘み取ることから「末摘(すえつむ)花(はな)」などと呼ばれ親しまれました。
万葉集に「くれないの八塩の衣朝な朝な馴れはすれどもいやめずれらしも」と詠まれ、このころから紅色染料を得る植物として栽培され、大事にされていたのを伺い知る事ができます。ベニバナはゴボウやアザミの仲間と同じように管状花が集まって頭花をつくります。
この管状花は朱黄色に咲きのちに紅色をおびてくるので、この時期を見計らって指先で管状小花を摘み取ります。これを乾燥したのが生薬の「紅花」で、女性の血の道、冷え性、月経痛などの症状に応用されています。したがって女性が唇に臙脂(えんじ)(中国古代燕の国の化粧料)を点ずることによって、これらの症状から解き放されることにあるようです。
乾燥した紅花を水で湿らせ、これを叩くと次第に黄色の成分が抜けて赤い色素であるカルタミンだけになります。これに青梅の実を燻製にしたふすべうめ(烏梅)から作った酸を加えると、目も覚めるような紅色に発色します。絹糸をこの中に浸けると、えもいわれぬ高貴な緋色(ひいろ)に染まります。
この紅色を乾燥させて小壺や貝のような容器にいれたものが、江戸時代から昭和ごろまで多くの女性に愛用されてきた口紅です。
また、女性が紅で染めた下着や衣類を身に付けていたのも、虫が付かないようにしたり、女性の生理衛生上の目的もあったのです。
紅藍(べにばな)の苗は、本草書人見必大著『本朝食鑑』に
「血を活し、痛みを止め、腫れを散らし、婦人の経脈の不調に宜しい。されども、多食してはいけない。新苗の嫩らかいのを湯に十分沸煮て、しょうゆに漬けて食べたり、あるいは茹としたりするのも佳い。」
血剤は苦くて冷やすなどの性質を持っているのですが、紅花は辛温ですから貧血の人や冷えている場合の血症に使う薬です。
・狭心症・軽度の心臓の痛み
紅花10g、丹参20g、桃仁10g、川芎5g、地龍5g、当帰6gを酒と水で煎じ、1日2-3回に分けて服用する。
冠心Ⅱ号方:赤芍薬・川芎各15;紅花・降香各12;丹参24
・床ずれ・しもやけ
紅花多量、金銀花少量(3:1)を水で煎じ、滓を取り去り、続けて粥状になるまで、とろ火で煎じ、患部に塗り、ガーゼで包み、1日おきに換える。
別の処方は、紅花、野菊花等分に水適量を加え、煎じて膿汁をつくり、温めて患部に湿布する。1日2-3回薬を換える。
・打ち身・ねんざ・原因不明の腫毒の初期、手足のたこ
紅花100gを黄酒にまぜ、半分焦げるくらいまで炒り、こまかくすりつぶして粉末にし、米酢で調合し、患部に塗る。朝晩薬を換える(皮がつぶれているものは用いてはならない)。
・月経困難、月経痛、血液の量が少なく黒い
紅花5-10g、蘇木10g、川芎5g、当帰8g、桂枝10gを酒と水等量煎じて服用する。
・婦人病、月経不順、更年期障害
紅花を陳年黄酒200mlに漬け、磁製の壺に入れ、密封し、水浴中に入れて数時間煮て、取り出して滓を取り、白砂糖適量を加え、1日3回適量飲む。(『金匱要略』に「紅藍花酒方」が記載されている)
栽培法土作り:堆肥・鶏糞・石灰を入れてよく耕す。従来は連作を嫌うものとして三年間中休みの輪作を行ってきたが、石灰を施用し、堆肥を増やし、同時に微量要素肥料を加えることによって連作しても収穫は減らない。
種まき:秋(9-10月頃)または春(気温が13℃になる前に)に種子をすじまきする。
敷きわら:霜のひどいところは根が浮き上がらないように敷きわらをする。発芽力は数年持続するので播種用には当年産のものより前年産を使ったほうが発芽がよくそろう。移植したものは活着しても発育はよくない。
間引き:本葉が2-3枚の時に10cm間隔に間引く
施肥:本葉が10枚のころ20cm間隔に間引き、化成肥料をばらまき土寄せをする。
収穫:花が黄色または淡紅色のとき摘み、天日乾燥する(紅花)。種子は花が枯れ、子房が膨れたものをとる。
タネの収穫:採花後さらに10日ほど放置すればタネが成熟する。
ベニバナにはカルミサンと呼ぶ紅色の色素があり、これが本来の口紅の色素。食用紅として無害の色素で、これと水溶性のサフロール黄と呼ぶ黄色の色素がある。
(紅板の作り方:摘んだ直後のベニバナを清水で洗い、水を切って数時間寝かせ、これを搗いて餅状にし液汁をしぼり捨て、だんごほどに切ってセンベイ状に押し広げ、1日天日乾燥し、あとは室内で陰乾して干し上がります。
小野蘭山(おのらんざん)の「本草綱目(ほんぞうこうもく)啓蒙(けいもう)」(1803)には、ベニバナの品質について、
「仙台より上品、次に出羽の山形、次に出羽谷智(やち)のものと磐城三春(みはる)が続く。これら奥州の紅花もちは筵(むしろ)と筵の間にはさんで銭形に作るが、肥後から出るものは竹筒の中に入れて固めたのもで、円形であるがかたい。薬にするのはこのようなものでなく、花弁をつまんでそのまま乾燥させた『ミツナリ』というものを用いる」
と記している。
紅(くれない)の花にしあらば衣手(ころもで)に染めつけ持ちて行くべく思ほゆ
(もしあなたが紅(くれない)の花であったら衣の袖に染めつけて持って行きたく思っています。)
(巻11―2827)
紅(くれない)の 深(ふか)染(そ)めの衣(きぬ) 色(いろ)深(ぶか)く 染(し)みにしかばか 忘れかねつる
(紅の染料が衣にしみ込んで濃い色にそまるように、あなたのことが私の心にもしみ込んでしまったせいか忘れられないんです。という恋歌)
(巻11―2624)
外(そと)のみに見つつ恋ひなむ紅の、末摘花(すえつむはな)の色に出(い)でずとも
(よそ目にばかり見て恋し続けよう。くれないの末摘む花のように表面にはあらわさなくても。)
(巻10-1993)
紅の 薄染め衣 浅らかに 相見し人に 恋ふるころかも
(くれないのうす染めの衣のように、浅い気持ちで逢ったあの人が恋しいこの頃だなあ。)
(巻12―2966)