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薬草クラブ ヒオウギ

ヒオウギ・射干(アヤメ科)Belamcanda chinensis DC,の根茎

寄贈者名・産地・年月日・経歴:1999,11唐招提寺

[気味]苦、寒

[帰経]肺・肝

[主治]扁桃炎・去痰・鎮咳(清熱解毒・消腫利咽・消痰散結)。

 

日本、台湾、中国、インド北部など、東アジアの広い範囲に分布する植物です。

ヒオウギの地上部は、冬になると枯れますが、地下に比較的太い根茎をもつアヤメ科の多年草です。

根茎を乾燥したものを「射干」と呼び、喉に痰が詰まって熱がでたり、呼吸をすると 「ひゅうひゅう」という音がするのを目標に、射千麻黄湯、鼈甲煎丸などの漢方処方に配剤される生薬です。

妊婦には禁忌。

 

射干の中国名は「茎・梗はまばらで長く射る矢の長竿(ながさお)のようだ」と言われるに由来。

日本名「檜扇(ひおうぎ)」は、剣状の偏平な葉が扇の如く左右に拡がり、草姿あたかも檜扇に似ることから名付けられ、また漆黒光沢ある種子を鳥羽玉(うばたま)とか射干玉(ぬばたま)と呼ぶようになったと伝えられます。

檜扇とは、扇とともに平安前期に日本で考案された礼装用の道具、ヒノキの白板を綴(と)じて造られ、衣冠(いかん)または直衣(のうし)のときの笏(しゃく)にかえて持ち、のち貴婦人が礼装時に持ったと言います。熊野熊野速玉大社(くまのはやたまたいしゃ)には、大きな檜扇が宝物として今に保存されています。

 

ぬれたまの 黒髪山を 朝越えて 山下露に 濡れにけるかも

(万葉集7-12417)

黒玉(ぬばたま)の 夜さき来れば巻向(まきむく)の 川音(かはと)高しも嵐かも疾(と)き

(夜になって来ると巻向川の川音が高く聞こえてきます。山の嵐がはげしく吹きおろしているのでしょうか)

(万葉集巻7-1101)

 

ヌバタマは「夜」の枕詞。「ひおうぎ」の光沢ある種子が長く残り、黒色であるのはうばたま(鳥羽玉)ぬばたま(射干玉)といい、夜の枕詞となっています。「ぬばたま」は外にシャガの説があります。

 

ぬばたまの 夜の更けゆけば 楸(ひさぎ)木(お)ふる清き 川原に 千鳥しば鳴く 

 山部赤人 巻6-925)

(ぬばたま=ヒオウギ、楸(ひさぎ)=キササゲ)

佐保(さほ)川(がわ)の 小石(こいし)踏(ふ)み渡り ぬばたまの 黒馬(くろま)の来夜(くよ)は 年にも あらぬか (坂上郎女(さかのうへのいらつか)

(「あなたは黒馬に乗って、佐保川の小石を踏みながら渡ってくる。そんな夜が1年中続いてくれるとよいのになあ」坂上郎女が恋人の藤原麻呂に贈った情熱の歌である。)

(巻41525)

 

「ぬばたま」は黒、夜、闇、夕、髪、今夜、夢、月などの枕詞に使われているが、檜扇と呼ばれる植物の花が咲いた後にできる黒色の種子を指す。

 

「本草和名(ほんぞうわみょう)」(918(918))や「和名抄(わみょうしょう)」(932)では、射干(やかん)の漢名に和名をカラスオウギと記し、「延喜式(えんぎしき)」(927)では「夜干」の漢名を書いて、カラスオウギとしている。

秋の初め、熟した果実が裂けると、光沢のある黒い種子があらわれる。この黒い種子を烏(からす)に見立て、葉が扇(おうぎ)のように並ぶので、烏扇(からすおうぎ)となった。

しかし、平安のころの扇は檜(ひのき)の薄板を重ねて作り、檜(ひ)扇(おうぎ)と呼ばれたため、烏扇の名がすたれ、檜扇に由来して名になった。万葉の歌にヌバマタが出てくるが、これはカラスオウギより古い名で、ヌバは黒の古い呼び方、黒い玉を意味し、黒い種子に由来している。

 

効用

・のどが腫れて痛み、呼吸がしにくい時に、根茎の一片を口に含んで唾を飲み込むか、かみ砕いて汁を飲むと効く。

・真っ黒い種子はそのまま服用するとめまいに効く。

・「和漢(わかん)三才(さんさい)図会(ずえ)」(1713)では、咽喉腫痛(いんこうしゅつう)に射干の根と山豆根の陰干しにした粉末を吹きかけると、その効は神のごとし、と記している。このようにわが国では、腫痛や扁桃炎に内服や外用することが行われてきた。

・扁桃炎、袪痰 1回量5~10gを、水300㏄で1/3量に煎じて服用する。

 

日本三大祭の第一にもあげられている祇園祭は、京都伝承の夏祭りである。

祇園祭には、ヒオウギという植物が必ず飾られるという風習がある。

ヒオウギは扇状の葉を持つことからヒオウギ(檜扇)と名付けられた。

古代、ヒオウギで悪霊退散したことから厄除けの花として飾られるようになった。

そして、祇園祭が元々は疫病を流行らせている怨霊の怒りを鎮めるために始められたことから、悪霊退散に使われたヒオウギは欠かせないものとなったと考えられる。

(京都ノートルダム女子大学・黒田優香「祇園祭と植物ヒオウギの文化誌」)