ドクダミ(毒溜・毒痛) 生薬名魚腥(ぎょせい)草(そう)、十薬
花は十字 葉は菩提樹と一茎に奇しくもそなえる聖(ひじり) 毒だみ
(久松真一)
ドクダミは、日本列島から中国を経てヒマラヤ、そしてジャワに分布するアジア固有の一属一種。
日本列島には普通にありますが世界的には珍しい植物です。
[気味]辛・微寒
[帰経]肺・腎・膀胱
[主治]毒消し作用、殺菌、浄血、利尿、血管強化、血行促進作用(清熱解毒・消癰・利水通淋・清熱止痢)。
採集時期 5~7月の花期、天気の良い日が続く時期、正午頃に全草を採取し、1~2日天日乾燥した後、日陰で乾燥させて、湿気ないように保存します。生の葉は随時必要な時に採取します。
十種の薬の能ありて十薬となす
ドクダミは漢方名では「十薬」と呼ばれ、江戸時代に貝原益軒が書いた『大和本草』の中に、「十種の薬の能ありて十薬となす」と出ています。
十種の薬の能とは、毒消し作用、殺菌作用、利尿作用、血管強化作用、血行促進作用などですが、他にも十種といわず、もっと多くの効能があるので、そのことを伝えるのに十種とつけたといわれます。
ドクダミの独特のにおいの素は、デカノイルアセトアルデヒドとラウリルアルデヒドという精油成分で、非常に強い抗菌作用があります。
ドクダミの臭気は昆虫も嫌うらしく、虫くいのドクダミは見たことはありません。
生の葉の臭いの精油成分は、乾燥すると揮発してまったく臭いは無くなります。
・老廃物除去 排便を促す緩下作用と余分な水分を排泄する利尿効果があり、さらに毛細血管を強化するルチン作用ももっています。
・よぶんな塩分を排出 ドクダミの成分の一つにカリウム塩があります。カリウム塩は神経細胞や筋肉組織を活性化する働きをもっています。また腎系統の働きを調節し、体内水分を正常に保ちます。利尿作用、快便作用、皮膚表面の汗腺の調節などに効があり、汗は大汗でなく微汗するなど自律神経をコントロールする働きもします。
ドクダミの生葉は独特の臭気のため飲用できませんが、乾燥させると精油成分は揮発してしまうので、煎じて容易に飲用できます。長期に飲用することで、成人病の予防や毛細血管の強化につながり、皮膚の新陳代謝もよくなって肌には潤いが出てきます。
・狭心症の痛みの緩和 新鮮なドクダミの根茎を毎回3~6g口内に入れ、生のまま噛む。1日2~3回行えば痛みが緩和し、続けて服用することによって、治癒する症例もあります。
・老廃物除去作用(化膿性の腫物に) 採りたての新鮮な生葉5-6枚を重ね、濡れた新聞紙に包み、アルミホイルで包んで弱火でゆっくり焙り、柔らかくなったら、腫物の大きさに折って患部に当て、絆創膏で止めておくと、膿(うみ)を吸い出し腫れもひきます。
・余分な塩分を排出(利尿・便通・高血圧予防) 乾燥したドクダミ5~10g、ハトムギ10gを煎じ、お茶がわりに飲むと、緩下・利尿の効があり、浮腫をとり、もろくなった毛細血管を強化し、動脈硬化、高血圧を予防する効果もあります。
・皮膚の各種疾患 乾燥したドクダミ5gとハトムギ10gを煎じて服用すると、吹き出物・ニキビ・イボに効果があり、お肌スッキリ。髪に艶を出すには、黒豆を加えるとよいです。
・その他 乾燥したものを煎じて飲むと肺の熱をとる働きがあり、生の葉を鼻孔につめるのも蓄膿症によいです。
・ドクダミ風呂 100gほどの乾燥したドクダミを水から煎じ、その液だけを浴槽に入れ入浴すると、肌荒れ・ニキビ・吹き出物・アトピー性皮膚炎に効果的がある。便秘・宿便:長年の冷え症や食生活のアンバランスから腸の働きが悪くなっている人には、入浴中、腹部のマッサージをすると効果があります。
冷え症や生理不順・膀胱炎:体を温めます。外陰炎・腟炎:ガンジダ・トリコモナス炎などにも良いです。
・虫に刺されたとき 生の葉を揉み、汁を付けると早々に治ります。
・新鮮な軟らかいドクダミの根茎(白い部分)を、ご飯に炊き込んで健康食「ドクダミ飯」、茹でて水にさらしきんぴら風に炒める。
・葉を天ぷらにした野草料理があります。また生葉を味噌漬けや塩漬けにして蓄え、冬時期の保存食や食料にします。根茎を生のままかじれば、狭心症の痛みを緩和することができる。
・ドクダミ発酵液:生の葉をジューサーでジュースを作り、5~6分の1量の蜂蜜を混ぜて布をかぶせて保存。老人の体力低下・食欲減退に。
・ドクダミ風呂は血液循環の改善、消炎作用、保温効果が高いばかりでなく、ホルモンバランスの悪くなった女性の不定愁訴つまり更年期の冷え、のぼせ、生理不順、腰痛、陰部のかゆみやただれ、更年期性皮膚のかゆみなどのトラブルを解消してくれます。入浴効果でホルモンの調整、温補作用による美肌効果も期待でき、自律神経失調による不安感、不満、不眠などにもいい結果が出ています。
家康は晩年に至って医薬学に強き関心を抱き、多くの薬物や薬草を貯え、自ら調剤していたことまた、食は粗食で奢(おご)らず、美食を戒め、晩年に至も毎夏の水泳ぎ鍛錬や日課念仏を欠かさなかったことは有名ですが、「ドクダミ」という植物名を、日本で初めて紹介したのは、徳川家康ではないかと思われます。
それは次の文章からです。
『徳川家康の教訓』に
「一、身の嗜(たしなむ)の事、人に好き嫌ひ、得手・不得手これある事にて候、とかくものの片よらぬ様に致させ候事、たとへば四季の花色々様々に咲候で、何れも詠(なが)めこれあり候、その中にどくだみと申す草、花も香りも悪敷ものにて、何の用にも立ち申さざる草のやうなれども、湿の薬(どくだみ)は煎じて用ひ候ば、能(よき)薬(くすり)にて候、その如く何藝(わざ)にても人の覚え候事は承置(知)、何ぞの時、入用のことあるものにて候(以下略)」。
これは、慶長17年(1612)2月25日、当時71歳だった家康が駿府城で書いて二代目将軍秀忠夫人於江与(おえいよ)に宛てた手紙の一節ですが、余人に「健康に役立つ良き薬だ」と言い切るには、日常に服用し、その効能を自ら確かめていたからこそ、自信を持って説得できるのです。
平安時代の本最初の漢和薬名辞典、深根輔仁(ふかねすけひと)著『本草和名』(918)には漢名の蕺(じゅう)に対して之布岐(しぶき)の和名が書かれていました。
「どくだみ」との和名は、『徳川家康の家訓』から貝原益軒著『大和本草』(1709)にその呼び名が使われています。
「ドクダミと云う又十薬とも云う甚臭アシ、家園にウフレハ繁茂シテ後ハ除キガタシ。駿州甲州の山中ノ村人ドクダミノ根ヲホリ飯ノ上ニムシテ食ス味甘シト云(中略)和流ノ馬医コレヲ用イテ馬二飼フ十種ノ薬ノ能アリトテ十薬ト号スト云」と。
小泉栄次郎氏が『和漢薬考(後編)』(大正11年(1922))蕺(じゅう)菜の項に、ドクダミの葉及び根茎なり。
治瘡薬として世に知られたる民間薬として「毒蛇・毒虫の刺傷に生薬を塩にて揉みて付く。
疔瘡に生薬を搗き爛して付く一時痛み甚だしきも之を取り去らず。陰門爛れたるに葉を煎じて洗ふ。
瘡毒・田虫・疥癬等に根茎葉の浴湯を造り入浴し又飲用す。
血の道・寸(す)白(ばく)(婦人の腰痛や生殖器の病気)・疝気等に根茎葉を陰干しし茶の代わりに飲用す」と和名はドクダミと呼び、今日の利用法までも網羅されています。
その後、ドクダミブームを引き起こし、薬として認知されるようになりました。餌に混ぜると虹マスなどが元気に育つ、また、現在でも競馬馬にも食べさせるようになりました。
ドクダミの白い花びらにみえるのは「苞」といい、花に付随した葉が変形したもので、本当の花びらではない。本当の花びらはごく小さく、雌しべと雄しべだけの構造で花びらもなく、中央の花軸に多数が集まってつく。
日本のドクダミはたいがい3倍体で単為生殖するので、虫の手助けは不要である。
ドクダミ科は花びらも萼(がく)も持たない原始的な被子植物なのだが、八重咲きの出現は「花びら」が進化する過程を示すモデルとして注目されている。
・においこそ命 特有のにおいの正体は、デカノイルアセトアルデヒドという揮発性物質である。
この物質は、細菌やカビの増殖を抑える働きがある。
植物の生存を脅かすのは虫や草食動物だけでなく、病気を引き起こす細菌やカビも大敵であり、病気から自らを守っているのです。
(多田多恵子『種子たちの知恵』)