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薬草クラブ ツユクサ

ツユクサ(オオボウシバナ)・鴨跖(おうせき)草(そう)(ツユクサ科)Commelina communis L,の全草

[気味]甘・苦、寒

[帰経]肺・胃・小腸・腎・膀胱

[主治] 風邪(温病)発熱不退・咽喉腫痛・熱性下痢・心臓病などの手足のむくみ・熱淋尿渋(清熱解毒・良好な利(清熱解毒・利水)

 

ツユクサの分布は、北からカムチャッカから日本列島、シベリア、朝鮮半島から中国大陸に及ぶ地域の固有種のようです。したがって日本にも自然分布しています。 古い時代には、ツキクサと呼んでいたと「和名抄(わみょうしょう)」(932)や「本草(ほんぞう)和名(わみょう)」(918)に出ています。また「万葉集」や「枕草子」でも同じように呼んでいます。これは花弁の汁を、布にこすりつけて染めるという着草(くつきさ)という意味からです。

 

月草(つきくさ)に衣(ころも)は摺(す)らむ朝露に濡れての後はうつろひぬとも

(『万葉集』巻七・一三五一)

 

(「月草」は露草(つゆくさ)の事。染料として古くから使われ、ゆく布に染め付けることから「着(つ)き草(ぐさ)」と呼ばれたようだ。しかし、この花で染めたものは色あせて変わりやすい欠点があります。このことから万葉歌では、相手が移り気な性質だと知りながらも心をひかれる思いを、月草にたとえて詠んでいます。

 

ツユクサは染料植物として、天平のころから利用されてきました。そして、後に花が4㎝に近いオオボウシバナの変種などが発見され、近江の国で青花紙が作られ、京都の友禅染の下絵を描くのに用いられています。ツユクサの花の色素は白い布地に青色に描かれるが、水に浸すと脱色します。この性質を利用して、青花紙に利用されたのです。現在では、滋賀県草津市近郊で栽培されています。

小野蘭山は『本草綱目啓蒙』(一八〇八・享和三年)十一巻湿草の頃に「江州栗本郡山田村(現滋賀県草津市山田町)には、熟地に栽て花弁の汁を採る名産なり、其種尋常の者に異なり、苗高さ三~四尺葉の潤さ一寸ばかり、長さ六~七寸、花の大きさ一寸余、毎朝瓣(はなびら)をとり直に搾りて紙を染め四方に売出す、これを山田のアヲバナと呼ぶ、勢州にてはボウシガミと云、関東にてはアヰガミと云い、衣服の下絵を畫くのに必要の者也、この紙を切り、皿に水を入れて絞れば青き汁出るを用て、衣服の花様を畫き、糊をかきて染汁の内に入れば皆消去る、又扇面にも用ゆ色鮮好なれども、水かかる時は皆脱去す」と紹介されています。この時代のころに野生のツユクサから選抜淘汰して作り出したものと考えられます。

 

貝原益軒著本草書『大和本草』(1709年)には、「鴨跖草、苗の性、大寒、腫気を消し、熱を消す。蛇犬くらいたるにつけてよし」と記され、また『広益地錦抄(こうえきじきんしょう)』(1719年)に「この草をもみて蛇犬の食いたるにつけてしるしあり。毒虫さしたるに塗りて妙薬なり」とあり。中国の本草書『証類本草』(1090年)に「解熱、熱性下痢、小児丹毒やできものの毒を除くに効あり」とあるように解熱効果があるようです。

江戸の産婦人科医の片倉鶴陵は「鴨跖草の全草を陰干しにしたものは熱毒を治すのに非常によい。いろいろな熱病に使ってみたがこれほど効くものはない」と賞賛しています。

現代では長塩容伸著『薬草の知識と効用』に、喘息の人がツユクサを毎日食べて半年後、すっかり元気になった体験談を紹介しています。

 

効用

・ツユクサは、解熱、利尿、解毒薬として風邪や熱性下痢、水腫に、また心臓病などの手足のむくみに用いられます。

・気管支喘息には青花を煎じて服用し、小便の出にくい時にはツユクサとオオバコを合わせ、その汁を飲むと効果があるといいます。

・昔は、生まれた赤ん坊に青花を煎じて飲ませて胎毒をおろし、茎や葉をお風呂に入れて神経痛などに用いました。

・青花紙を水につけ、色素を溶け出させた水は魚の毒消しによいとされ、またジンマシンなどの食餌性アレルギーにも効果があるとされている。

 

ツユクサを食べる

柔らかい葉はお浸しや和え物にしてもよい。

友禅染めの青花紙としても利用されている。

 

ツユクサの用意周到

・澄み切った青色ははかなく  青色は、色素のアントシアンにマグネシウムが結びつくことによって生じる。花びらの絞り汁は染物に使われて。和紙に染み込ませた「青花紙」で、近江の国の特産物。

・葉先の露はひとしお  名前の由来として、花の命が短くて朝露が残っているうちにだけ咲くからとも、露を帯びて咲くからだともいう。

露の雫:植物の葉は、昼の間は裏面の気孔から根が吸い上げた水分を水蒸気として蒸散させている。だが、夜になると蒸散作用は弱まり、葉の内部に水が溜まる。この余分な水は葉脈の末端にある水孔という穴から外に押し出され、水滴となって滴(したた)り落ちるのである。ツユクサはこの作用が特に盛んなので、朝になるとシャンデリアのような、葉の先端に露の玉がきらめくのである。

・かわいい雄しべの秘密 花は、ちょうど2枚貝のようにたたまれた包葉(ほうよう)(苞(ほう)ともいう、花に付随した特殊な形の葉)の間から、毎朝一つずつ顔を出す。

雄しべ6本。2本の雄しべは雌しべともに長く前方に突き出ているが、茶色であまり目だたない。短い3本の葯(花粉袋)はX字型をしており、花の中心で黄色く目立つ。残る一本は両者の中間の位置にあり、Y字型で、色も黄と茶色の中間である。

花の多くは雌しべと雄しべの双方を持つ両性花だが、中には雌しべを欠く雄性花も混じっている。

両性花が実を結ぶには多量のエネルギーを費やすが、雄性花が花粉を作るだけなら少量ですむ。

エネルギーを節約し、花粉をばらまいてあわよくば父親として子孫をのこそうとする花のたくらみなのである。

ところで、目立つ3本の短い雄しべは、実際は花粉をまったく作らない。虫を誘うための「飾り雄しべ」(仮雄しべ、仮雄蕊(かゆうずい)とも呼ぶ)なのです。

一般に、花を訪れる虫は、蜜と同時に花粉を食療として利用する。植物によっては蜜を作らず、虫しに花粉だけを提供している種類もある。

しかし、花にしてみれば、花粉には卵細胞に精核を送り込んで子を作るという重要な任務があるので、多量に食べてしまっては困る。花粉の製造には貴重なたんぱく質や核酸を要するので、経済面でも苦しくなる。

そこでツユクサは「飾り雄しべ]を用意し、たんまり花粉があると見せかけて虫を誘う。だまされた虫が長い雄しべの花粉に触れて次の花の雌しべに運んだ時、花は目的を成し遂げる。

・最後の大仕事

ツユクサの花は、短い命が終わりに近づく頃、ひそかに大仕事を果たす。

花は、しぼみながら長い雄しべと雌しべを巻き上げ、絡み合わせて自ら受粉する。

同じ花の花粉で受粉することを同花受粉という。朝の短時間に虫が来るとは限らないが、こうして同花受粉を行うことで確実に実を結ぶことが出来る。

同花受粉は、しかし極端な近親交配となり、遺伝的に劣った弱い子孫が生まれる危険が大きい。が、冬にかれる一年草のツユクサとしては、なにがなんでも種子を作らなければ子孫は絶えてしまう。その執念が生んだ最後の秘め技が、巻き上がる雄しべと雌しべなのです。 (多田多恵子著『したたかな植物たち』)