[気味]苦・甘、寒
[帰経]肝・胃・腎
[主治]感染性炎症発熱、母乳不足・熱淋・黄疸・胃炎・胃および十二指腸潰瘍。
万病に効果がある野草(清熱解毒・消腫散結・利水通淋・清利湿熱・清肝明目)。
「やぶ入りや浪花を出て長柄川(ながらがわ) 春風や堤長がうして家遠し 堤ヨリ下りて摘芳草(ほうそうをつめば) 荊与棘寒路(けいときよくみちをふさぐ) 春艸路三叉中(しゅんそうのみちさんさなか)に捷径(しょうけい)あり我を迎ふ たんぽぽ花咲けり三々五々 五々は黄 三々は白し気得(きとく)す昨年この道よりす 憐れみとる蒲公(たんぽぽ)茎短して乳浥(にゅうあま)せり 昔々しきり慈母の恩・・」
蕪村の長詩「春風馬堤曲」の冒頭の句
日本に産するタンポポの種類は多く、それぞれの地域によって少しずつ形態が異なり、種としての分化を示しております。(カントウタンポポ、トウカイタンポポ、カンサイタンポポ等)蕪村が詠んだ「五々は黄・・」は、カンサイタンポポと四国や九州のシロバナタンポポだったといえましょう。
明治の始めころに西洋野菜としてわざわざ輸入した西洋タンポポが蔓延しております。
日本産は、春のみ咲き群居性。西洋産は、四季を問わず咲き、単独性で、花粉が無くても種子を飛ばす単為生殖で繁殖力旺盛。頭花の総苞外片が反り返っています。
根を蒲公英と呼ばれ、出典は『千金翼方』や『新修本草』で、『第四改正日本薬局方』に「解熱・発汗・利尿・健胃・強壮・浄血薬」として収載されてことあります。
元禄九年にできた宮崎安貞の『農業全集』に「葉をとり、ゆでて浸しもの、あえもの、汁ものなどの料理によく、これを食すれば大用の秘結をよくなおすなり。圃のまわり、菜園のはしばし多少によらず植ゆべし」とその有益を書いています。
ヨーロッパでも十八世紀に、植物療法の中に「春先の六週間から、ときに数ヶ月にわたって用いられ、肝臓や胆道の病気、尿路結石などに効果がある」とあります。
万病に効果ある野草の女王であり、肝臓病・腎臓病・糖尿病、上部感染・流感・急性気管支炎・肺炎・胆嚢炎・乳腺炎などの感染性炎症発、不妊症・乳腺炎・母乳不足・神経痛・リウマチ・癌などの諸病にも有効です。消化不良、浮腫、乳腺炎、胆汁分泌の促進に全草10gを煎じ分服します。いぼには、根、茎、葉からの乳汁を塗り、一切の熱毒・悪瘡・悪刺(きず・いたみ)によいです。
癰腫疔毒に常用し、とくに肝・胃二経に入り乳竅を通じるため、肝欝気滞・胃熱壅絡による乳癰の要薬となっている。また、利水通淋に働いて、「通淋の妙品」といわれ、熱淋・黄疸にも有効です。
妊産婦に増血・催乳作用があるといわれていますが、その成分にカルシウムやリン酸を含み、ビタミンB1やビタミンC、ビタミンAも含まれていることがわかっています。
タンポポは苦味のあるものですが、現代食生活の中では甘味と塩味が中心になっていて、特に不足しているものが苦味のある食品なのです。
陰陽五行説によりますと、苦味には消化作用があり、健胃剤として用いられています。
春になり大気が熱をおびてくると、あらゆる生命が活発に活動をはじめます。地上の植物すべてが芽を出す作用を起してくるということです。アレルギーの人も皮膚表面が赤くなり、目も充血し、鼻粘膜なども炎症が出て、鼻血が出たり、かゆみになったりと、とにかく炎症性の働きが強まります。
この炎症が強く出すぎるのを抑えるのに、東洋医学の方では、「春に苦味と酸味を盛れ」ということばがあります。タンポポは、まさにこれを満たしてくれる植物でもあるのです。
・腎臓病:朝目がはれぼったい、足がむくむ、トイレの回数が多すぎる、少なすぎる、透析の心配がある人。
・糖尿 網膜症 腎炎 手足のしびれ
・肝臓病:つきあいでお酒を飲む機会が多い人、疲れやすい 油が気になる、肝臓のデータが気になる(C、B型肝炎)。
・癌:癌診断された人(特に肝がん、大腸がん、すい臓がん、乳がん、前立腺がん、子宮がん)、がんの恐れのある人、腹水、胸水がたまる。
・女性不妊:基礎体温(高温期と低温期)がはっきりしない人 生理不順 ホルモン療法が気になる。
・男性不妊:精子の数・運動率などが改善し、妊娠しやすくなる。
・皮膚病:アトピー、どす黒い顔色、しみ。
・目の病気:目の疲れ 緑内障 白内障 結膜炎。
・便秘
・ウィルス:インフルエンザ、ヘルペス、コロナウィルス 風邪などの病気。
・膀胱炎:尿がにごる。尿が臭う、検査データの白血球、赤血球が陽性の人。
・神経:震え、筋萎縮、パーキンソン病。 (ショウキT-1PLUSより)
冬から春のサラダに生葉と花をつかう:12月下旬から4月までの葉は苦味が少ない。
・若い茎葉は、おひたし、あえもの、みそ汁の実にする。
・花はキクの花のように酢の物、てんぷらに。
・葉はホウレンソウと同様にゆでて、四、五時間水にさらし、あく抜きをしてからサラダ、あえもの、おひたし。さっと油でいためて肉料理の付け合せにもなります。また、レタスのように生食してもよい。V.Aやカルシウムなどは豊富で、抗菌・解毒作用がある。
・根を乾燥して弱火で炒ってタンポポコーヒーとしてもよく、生の根をキンピラにしてもよい。みじん切りをお好み焼きやギョウザの具に。
・愛らしい名の由来は
①花を横から見た時の形が鼓(つづみ)(の半分)に似ている。
②茎の両端を細かく裂いて水につけると放射状に反り返って広がり鼓のような形になることから。
③鼓の音でタン、ポ、ポ。古くは鼓(つづみ)草(ぐさ)の名でも呼ばれていた。
④丸い綿毛の穂をたんぽ(布に綿を丸く包んだもので稽古槍(やり)の先につける)に見立てて、「たんぽ穂」。
⑤古名「田菜」に、ほほけた穂という意味で、たなほほ、たんぽぽ。
・在来種と外来種たんぽぽの違い
花の付け根の部分(総苞)を見比べると、在来種は瓦状に重なり合っている。外来種は総苞片がくるりと反り返っている。
日本産:春のみ咲く。群居性。在来タンポポは、夏になると葉を自ら枯らす(夏眠する)性質がある。
染色数が2倍体である(父方と母方から1セットずつもらう。
西洋産:四季を問わず咲く。タネの発芽温度域は幅が広く、いつでも発芽できる。
単独性で、花粉が無くても種子を飛ばす単為生殖(雌と雄と関係することなく単独で子をなすこと)で繁殖力旺盛。頭花の総苞外片が反り返っている。一年を通して葉を広げ、光合成を行う。
染色体数の免では3倍体である。
(多田多恵子著『したたかな植物たち』)
蒲公英(プーゴンイン)
あるお金持ちの家に年頃の娘がいました。ある時、その娘は乳房が赤く腫(は)れあがり、はげしい痛みにさいなまれていました。娘は恥ずかしがってだれにも話さず、じっとこらえていたのですが、やがて身のまわりの世話をしている小間使いの知るところとなりました。心配した小間使いは、娘の母親に知らせました。
「お嬢さまはご病気です。早くお医者さまをお呼びになっては…」
母親は娘の病状を聞いていましたが、やがて顔色を変えました。
(きっと親にかくしている恋人がいるにちがいない。嫁入り前の娘だというのに)
そう勘ちがいをした母親は、思わずカッとなり、小間使いに問い正しました。
「何ということです。さ、正直にお言い。娘はどこのだれと会っているの」
小間使いは、女主人の言葉に目をぱちくりさせ、
「そんなことはございません」
「恥を知りなさい。よくも父さま、母さまの顔に呢をぬっておくれだね」 と言いましたが、母親には聞く耳がありません。母親はさっそく娘の部屋へとんでいくなり、あしざまに言いました。
娘は根も葉もない疑いをかけられ、くやしくてなりません。かといって潔白を証拠だてることもできません。夜が更け人びとが寝静まってしまうと、娘はなおいっそう思い悩んでしまいました。
痛みは我慢できても、母の言葉にはこらえきれなかったのです。それに医者に診てもらうのも恥ずかしいと考え、ついに心を決めてひそかに抜け出すと、家の近くを流れている川に身を投げてしまいました。
その夜は、月の明るい夜で蒲(プー)という姓の漁師が娘と舟を出して、月光を洛びながら網をうっていました。すると、身投げをしたらしい水音がするではありませんか。漁師の娘は泳ぎが達者でしたから、すばやく川へとびこみ、おぼれかかっている娘を舟へ助けあげました。そして濡れた衣服を着がえさせているとき、乳の腫れを目にしたのでした。漁師は娘の病を知るとしばらく考えていましたが、夜が明けるのを待って、山から薬草を採ってくるように自分の娘に言いつけました。その薬草の葉にはノコギリの歯のようにギザギザがあり、茎には綿のようなふんわりした白い毛をつけています。漁師はその薬草を煎じて娘に飲ませました。こうして何回か飲ませているうちに、腫れは次第にひいていきました。
一方、娘の両親は、娘が身投げをしたらしいと聞いてたいそう驚き、ほうぼうへ人をやって行方を探していました。やがて、使いの者は漁師の家へもやってきました。
娘は家へ帰ることになり、漁師の親子に厚く礼を述べ、涙ながらに別れを告げました。
「また腫れるようなことがあったら、これを煎じてお飲み」
漁師は残っていた薬草を娘に持たせて帰しました。
娘は家にもどると、その薬草を庭に植えて、蒲公英という名をつけました。「蒲(プー)」というのは漁師の姓です。「公英(ゴンイン)」というのは漁師の娘の名前でした。
以来、その薬草は蒲公英と呼ばれるようになり、その薬効も広く知られるところとなったのです。