シャクヤク・芍薬(ボタン科)Paeonia veitchii LYNCH
寄贈者名・産地・年月日・経歴:1996,4、1999,11唐招提寺、1996,4和漢薬研究所、伊佐治氏
薬用部位・開花・採集時期:開花は5~6月、収穫は、4~5年目の秋。天日乾燥。
白芍(びゃくしゃく)(コルク皮を除去し、そのままあるいは湯通しして乾燥)
[気味] 苦・酸、微寒
[帰経]肝・脾
[主治]鎮痛・鎮痙・筋肉のひきつり・胃腸病(補血斂陰・柔肝止痛・平肝斂陰)
①補血斂陰 四物湯、桂枝湯
②柔肝止痛 四逆湯、柴胡疏肝散、逍遥散、当帰芍薬散、芍薬甘草湯・・・
③平肝斂陰 鎮肝熄風湯
[参考]
炒用すると補血柔肝に、生用すると斂陰平肝・治痢に強く働く、酒炒すると寒凉の性質が和らげる。
白芍・当帰は補血の効能をもつが、当帰は温性で血虚有寒に、白芍は凉血活血・散瘀に適す。また、いずれも止痛に働くが、当帰は補血活血・行気止痛し、白芍は補血斂陰・平肝止痛する。
赤芍(せきしゃく)(シャクヤクの根)
[気味]苦・微寒
[帰経]肝
[主治]清熱凉血(犀角地黄湯)、袪瘀止痛(桂枝茯苓湯)、清肝泄火
芍薬は 血をおぎなひて 腹いたみ 泄瀉痢病(せっしゃりびやう)に 鼻血(はなぢ)をも治(ぢ)す
芍薬は 鉄気(てっき)をいませ きざみつつ 下痢(げり)にはあぶり 後重(かうじゅう)は生(せう)
(橋本竹二郎訳『新編和歌能毒』)
芍薬のつんと咲きけり禅宗寺
(一茶)
中国東北部から朝鮮にかけての原産で、室町時代ごろから朝鮮国経由にて渡来し、足利時代に各寺院では薬用としてのみ栽培され、花を愛でるようになったのは、江戸時代中期以後のことです。時代を追って品種も増加し、明治以降、日本からヨーロッパに持ち込まれた芍薬は、改良され西洋芍薬として再び日本に渡って来た。前者古渡りのものを大和芍薬と呼び、これを今日では区別しています。
シャクヤクは平安時代の本草書『本草和名』(918年)で“衣比須久須利(えびすくすり)”とか“奴美久須利(ぬみくすり)”と呼ばれています。エビスは外国、唐の国を意味します。外国から来た薬の意となり、古くから薬として用いられていたことを物語っています。和名のシャクヤクは漢名の芍薬の音読みにしたものです。
乾燥した根を芍薬と称し、効能は江戸時代の薬書吉益東洞『薬徴』(1771年)に「結実(凝りの意)して拘攣(引き付ける)するを主治し、傍ら腹痛・頭痛・身体不仁・疼痛・咳逆・下痢・腫膿を治す」とあって、鎮痛・鎮痙・筋肉のひきつり・胃腸病などに使用します。江戸期の『いろは救民薬の歌』にも「腹痛みあるいは下り渋るなら、芍薬の根を煎じて飲むべし」とあります。
「神(しん)農本(のうほん)草(ぞう)経(きょう)」には、「腹痛、知覚異常を除き、刺すような痛みをとり、また発作性の痛みをとり、利尿の効があって、神経の安定によい」と、あります。
五年ほど育てた芍薬は、新芽が出る前の秋、太い根を収穫した後、元肥を入れて植え替えします。収穫した太い根は、水洗いをして皮をむき乾燥させた物は白芍、そのまま乾燥させた物は赤芍、皮をむき湯通しした物は真芍と呼びます。白芍に甘草を合わせた芍薬甘草湯は、腹痛やこむら返りなどの急激な痛みを和らげ、また、風邪の初期や肩こりや腰痛によく効く葛根湯にも配合されています。赤芍は婦人薬として桂枝茯苓湯などに配合されている大切な薬草です。
・急に起こる筋肉のケイレンによる痛みに
芍薬甘(しゃくやくかん)草(ぞう)湯(とう)(芍薬3g、甘草3gを1日量)を煎じて服用する。胃ケイレン、神経痛、胆石などの疝痛発作には、1日量を煎じて、1回に頓服する。小児の夜泣きには、1/4に減量して与えるとよい。
・生理不順、冷え症に
四物(しもつ)湯(とう)(芍薬(しゃくやく)、当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)、地(じ)黄(おう)各3gを1日量)を煎じて、1日3回に服用する。皮膚がかさかさで色つやが悪いという体質で、胃腸障害のない人の、次のような諸症に適する。産後の疲労回復、月経不順、冷え症、しもやけ、しみ、血の道症など。