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薬草クラブ サンザシ(山楂子)

サンザシ(山楂子)バラ科、Crataegus cuneata Siebold et Zuccarini
寄贈者名 1999,11唐招提寺(橋本氏が平成6年に富山医科薬科大学の藤野廣春先生より富山大学に80年来伝わるサンザシをいただいた物)

[気味]酸・甘、微温
[帰経]脾・胃・肝
[主治]肉食の消化促進健胃、消化、整腸、魚毒を消す(消食化積、止痢、破気化瘀・消長散結)。

 

山査子(さんざし)は 肉食(にくしょく)を能(よく) 消(せう)しつつ 胃(い)をととのえて 疝気(せんき)をも治(ぢ)す

山査子は うちくだきつつ 核(さね)をさり 用(もちひ)こそすれ 少(すこし)し焙(あぶ)りて 

(橋本竹二郎訳『新編和歌能毒』)

 

原産地は、中国の中部で、日本への渡来は、白井光太郎の『植物渡来考』によると「享保19(1734)年朝鮮産山査を小石川植物園及駒場薬蘭に植ゆ此木小石川植物園に今尚生存す(小石川植物園目録及駒場薬園坂本氏記録)」とあります。しかし幕府の記録 「御預御薬草木書付控」によると享保11丙午(1726)年中「吹上より・山査一四本」。恐らく京都経由で苗木が送られ、植え付けたのでしょう。薬草生産に熱心な将軍吉宗の命によるものと思われます。

 

九月の中頃から十月にかけて、実が赤く、または黄熟します。消化酵素を含み、肉類や脂肪の消化、胃腸の蠣動を助け下痢を止めるので生食または、叩いて種子や皮を取り除き糖蜜で煮て羊かんの様に固めて食用に供します。近年では、中国から缶入りジュースが輸入されています。果実をそのまま乾操させたものを「山査子」と称し啓脾湯、浄腑場、健脾丸などの漢方薬に配剤されます。

 

北原白秋の童謡「この道」の一章節に「あの雲もいつか見た雲、ああそうだよ、山査子の枝も垂れている」と歌われたところから、この頃には、まだ何処かで稀に見ることができたのでしょう。

 

5月に花びらは白色、雄しべが薄ピンク色でとても可愛い花を咲かせ、この時節になると、真っ赤に色付いたサンザシが枝が垂れ下がるほど実っています。

中国旅行の折、羊羹のような物やフレーク状のお菓子を食べたことがあり、本物はどんな味かと一つほおばってみましたが、果肉は軟らかくリンゴのようでリンゴでもなく、何となく酸っぱく感じ、美味しい物とはいえませんでした。

果実には消化酵素アミラーゼ、プロテアーゼおよびビタミンCなどを含み、肉類や脂肪の消化を助け、胃腸のぜん動を助け下痢を止める働きがあり、叩いて種子や皮を取り除き糖蜜で煮て羊かんの様に固めて食用にもします。中華料理店に行かれたときに、この羊かん風の物を試食してみて下さい。

 

山楂(シャンヅァ)(繆文渭著『中国の民話』)

むかし、ある山の一軒家に、夫婦と子供二人の一家が住んでいました。

 

あるじは山の畑で作物をつくるかたわら商(あきな)いにでて家族の暮らしをたてていました。子供は二人とも男の子でしたが、長男は先妻が残した子、次男は後妻の産んだ子でした。後妻はわが子に家をつがせ、畑をあたえたいため、長男を目の仇にして折りあらば無き者にしようと狙っていましたが、自分で手は下せません。そこで長男が病気にかかって死ねばよいと思うようになりました。

ちょうどそんなとき、あるじは商いでしばらく家をあけることになりました。

 

「おっかさんのいうことをよく聞いて、父さんの帰りをおとなしく待つのだよ」

と長男にいいふくめて、あるじは家をあとにしました。まもなく、まま母は長男にいいました。

「父さんの留守中は忙しいんだから、お前もお手伝いしておくれ。お前はまだ小さいからたいしたことはできないけれど、お弁当を作ってあげるから畑の番をするのだよ」

長男は雨の日も風の日も山の畑がけだものに荒らされないように見張りに立ちました。

まま母は毎日わざと生(な)ま煮えのごはんを炊いて弁当をこしらえ、持たせてやりました。年端(としは)もゆかぬ子供のことです。毎日生ま煮えのご飯を食べていたのでは胃がたまりません。しばらくすると胃の具合が悪くなり、日ごとにやせていきました。

「おっかさん、お弁当のご飯が硬くて、食べるとお腹が痛くなるんだ」

「いやな子だね。たいした手伝いもできないくせに、あたしのつくったお弁当にけちをつけるつもりかい。食べたくないなら勝手におしよ」

とかみつかんばかりです。長男は口答えもできず、山で泣きじゃくっていました。

山には野生のサンザシの木が至るところにあって、赤い実をたくさんつけていました。弁当が喉を通らず困っていた矢先です。長男はサンザシの実をもいでかじっていました。すると、お腹の空(す)いたのも忘れ、喉のかわきもとまりました。以来、長男は畑を見張りながら毎日サンザシを食べていました。不思議なことに張っていたお腹は楽になり、痛みもやわらいでゆきました。そのうえ何を食べても消化するようになったのでした。

その様子をみて驚いたのはまま母です。

「何としたことだろう。やせ細って死んでしまうかと思ったら肉がついてきた。あの子にはきっと神様がついているにちがいない」

それより、まま母はまま子いじめをふっつりとやめました。

 

しばらくしてあるじが戻りました。長男は留守中のできごとをすっかり父に話しました。商いをする人は機転がきくといいます。サンザシが胃腸によいのを知ったあるじは、さっそくサンザシを原料にして丸薬をつくり、売って歩きました。

サンザシが消化機能を回復させ、消化を促す作用があることは、かなりあとになって明らかにされました。