蓮葉(はちすば)はかくこそあるもの 意吉麻呂(おきまろ)が家(いへ)なるものは芋(うも)の葉にあらし(長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ))『万葉集』(巻16-3826)と詠まれ、我が国最古の処方集、808年の『大同類聚方』に「イモ」の薬方が二ヵ所にあります。また、正倉院文書に「芋茎(うけい)」(サトイモの茎)とあります。古くから日本人に愛された物と考えられます。
1サトイモ
[気味]甘・辛、平
[帰経]大腸・胃・脾
[主治]サトイモの煮汁は食欲を増進、肌理をちみつに、体内に凝結したものを排泄する、産後の古血を除去する(化痰軟堅・消腫散結・和胃調中・通便)。
2サトイモの茎・葉
[気味]辛、平 [帰経]―
[主治] 妊婦の胸苦しさや閟々とした心情を安らかにし、胎動不安を落ち着かせ、産後の
後産によく、産中・産後の造血作用もある。
サトイモ独特のぬめりは、水溶性食物繊維であるガラクタンとムチンによるもので、炭水化物とタンパク質の結合したものです。
ガラクタンは、脳細胞を活性化させ痴呆やボケを予防する効果があり、免疫性も高め、がんの発生・進行を防ぎ、風邪の予防にも働く成分であります。さらに消化を促進する作用もあり、整腸と便秘の解消に効果があります。
ムチンは、体内に入るとグルクロ酸に変わり、胃や腸壁の潰瘍を予防し、肝臓を強化する働きがあり、タンパク質の消化吸収を助ける作用や、滋養強壮作用もあります。
またサトイモには、体内の余分なナトリウム(塩分)を排出し、高血圧やむくみを防ぐカリウム、糖質の分解を助けるビタミンB1、便通を促し、体内のコレステロールや毒素を排出する食物繊維などが豊富に含まれています。
胃腸の調子を整え、食欲も増進させる効果もある低カロリーのサトイモは、便秘で悩む方、ダイエットしたい方、健康に気を配っている方にお勧めの食品です。
サトイモは洗うときに手が痒くなるが、これはサトイモに含まれているシュウ酸カルシウムという物質の針状結晶によるものであり、かゆみを防ぎたいときは、酢を指先に塗っておけばかゆみを防止できます。
現在、ウイルスや菌だけでなく、癌についてもワクチンの開発が進んでおり、肺癌の抗体を作ることで肺癌を予防する研究が進んでおり、サトイモのネバネバは粘液タンパクといい、抗体を作る原料となっています。
また、サトイモには亜鉛が100g中0.49mgと豊富に含まれています。亜鉛は精子を元気にするので、男性不妊にもよいです。新陳代謝を良くして冷え性を改善します。
サトイモの食用部分は、主として芋であるが、茎と葉も食用として使われます。 葉は、乾燥させてお茶にして飲用すると風邪や咽喉の痛みに効きます。茎も古くから食用にされており、正倉院文書に「芋茎」とあるのがそれです。茎は皮をむき、ゆでて水にさらし、アク抜きして料理にします。乾燥したものをイモガラまたはズイキといいます。
魚と一緒に煮て食べると「停留している気を下げ、虚を補い、体調を調える」という説は、日本料理にも大きな影響を与えています。有名な京料理「芋棒」(鱈と海老芋を煮た料理)も、その一例です。
・サトイモの煮汁
サトイモの煮汁は、食欲を増進させる働きがあり、肌理を緻密にし、体内に凝結したものをすんなりと排泄する働きがあり、例えば、結石のようなものを除去する働きがあることもその一つです。
サトイモの煮汁を飲むのに適当なのは、サトイモの味噌汁であり、柔らかく煮えたサトイモに豆腐やネギをあしらえば、解毒作用のある豆やネギの相乗効果と相まって一段と美味しい。
各食材・調味料・薬味の四気・五味・効能
・サトイモ[気味]甘・辛、平 [帰経]大腸・胃・脾
[主治]サトイモの煮汁は食欲を増進、肌理をちみつに、体内に凝結したものを排泄する、産後の古血を除去する(化痰軟堅・消腫散結・和胃調中・通便)。
・味噌[気味]甘・鹹、温 [帰経]脾・胃・心・腎・肺
[主治]腹中を補い、気を益し、脾胃を調え、心腎をし、吐を止め、腹下しを止め、四肢を強くし、専ら酒毒および鳥・魚・獣・菜の毒を解す。
・豆腐[気味甘・鹹、寒 [帰経]脾・胃・大腸・肺・腎
[主治]熱を引かせ、血を散じ、赤眼・腫痛を治す。脹満を消し、大腸の濁気を下し、久痢を止め、酒毒を解する。(益気和中・生津潤燥・清熱解毒・通乳)。
・ネギ[気味]辛、温 [帰経]肺・胃
[主治]風邪の発熱悪寒を除き、顔や目の浮腫を治し、よく汗を出す。一切の魚肉の毒を解し、強力な殺菌作用もある(散寒解表・通陽散寒)。
・ワカメ[気味]甘・鹹、寒 [帰経]肝・胃・腎
[主治]水を利し、酒毒を解し、しこりを取る(清熱化痰・軟堅利水)。
考察
食材は寒性に傾いていますが、味噌やネギの温性と煮ることによって平性から温性になります。五味は甘味・辛味・鹹味に配され、日本料理の特徴的な味となっています。臓腑経脈へは全てに帰入しています。サトイモの味噌汁は体内の毒を排泄し、身体を壮健にするもので、毎日頂くとよい物です。
・ズイキ(芋茎)の酢の物
古くからズイキは「古血を洗う」といわれ、出産後の女性に食べさせると体力が早く回復するとされ、産後の心身の安定のために食する習慣があります。
サトイモを産後に食べると、瘀血を除去する激烈な薬物に匹敵する作用があり、サトイモの煮汁を飲めば出血が止まる。サトイモの葉は、妊婦の胸苦しさや閟々とした心情を安らかにし、胎動不安を落ち着かせ、鉄分・カルシュウム・食物繊維が豊富で女性の見方であり、便秘、貧血、産中・産後の造血作用などに用います。
一般的には、茎の赤い赤芽ズイキが用いられています。
生ズイキを使う場合
・ズイキの酢の物
材料(4人分)赤ズイキ100g 、塩小さじ1/3杯、酢大さじ1杯、砂糖 大さじ1杯
作り方
①赤ズイキの皮をむき、4cmくらいの長さに切り、細いものは二つ割り、太いものは四つ割りにして、塩をふって軽く揉む。
②鍋を熱しズイキを空炒りする。しんなりしたらボールに調味料を合わせ、ズイキを入れて混ぜ、きっちり蓋をして冷めるまでそのままにしておく。
各食材・調味料・薬味の四気・五味・効能
・サトイモの茎・葉[気味]辛、平 [帰経]―
[主治]妊婦の胸苦しさや閟々とした心情を安らかにし、胎動不安を落ち着かせ、産後の後産によく、産中・産後の造
血作用もある。
・塩 [気味]甘・鹹、寒 [帰経]胃・肺・腎 [主治]脾胃を調和し、食べ物を消化し、食中毒を解す。
・酢 [気味]酸・苦、温 [帰経]肝・胃
[主治]瘀血性出血・食欲不振・消化不良・食中毒を消し、痰水(水毒の一種)・血病を遂い、魚肉菜および諸虫の毒気を殺す(活血散瘀・消食化積・解毒)。
・砂糖(白)[気味]甘、寒 [帰経]脾・肺
[主治]心肺部を潤化し、酒毒を解す(潤肺生津・補益中気。痰湿中満の者は不食)
考察
おかずとしては平性で少し冷やす物となっていますが、五味は調味料によってバランスが良くなり、臓腑経脈への帰入は良い物となっています。女性の見方のかずとなります。
・ズイキとスルメの煮物
岐阜近辺では、お産が終わると、嫁の在所から「芋茎(ずいき)とスルメ」が送られた。との事。古くから、ずいきは「古血を洗う」といわれてきました。また、出産後の女性に食べさせると体力が早く回復するとされ、産後の儀式としてきた地域もあります。後産のために食する習慣があったようです。
材料 ズイキ、スルメ、酒、しょうゆ、みりん、鰹だし 各適量
作り方
①芋茎は半日水にさらした後、さっと熱湯にくぐらせてしっかりアクを抜く。
②スルメは細かく刻んで、酒に浸しある程度柔らかくする。
③アク抜きをしたズイキを2~3㎝程の食べやすい大きさに切り揃え、②のスルメとともに手鍋で軽く油炒めにする。
④手鍋に②の酒と具材が浸る程度の鰹だしを入れ、7~8分煮込む。(煮込み過ぎは、シャキシャキ感を損なうため厳禁)
⑥適量のしょうゆとみりんでお好みの濃さに味を調え出来上がり。
各食材・調味料・薬味の四気・五味・効能
・サトイモの茎・葉 [気味]辛、平 [帰経]―
[主治]妊婦の胸苦しさや閟々とした心情を安らかにし、胎動不安を落ち着かせ、産後の後産によく、産中・産後の造血作用もある。
・スルメ[気味]甘、温 [帰経]― [主治]噎膈を病む人が食べると、膈を寛げ食を進める。筋骨を強くする。
・酒 [気味]甘・苦・辛、温 [帰経]心・肝・肺・胃
[主治]少量では神経を興奮させ、血液循環を増進させ、薬力の発揮を促進する。鳥魚・蔬菓の毒を消す(温経通絡・理気活血・散寒止痛・沢膚燥湿)。
・しょうゆ[気味]鹹・甘、微涼 [帰経]脾・胃・腎
[主冶]一切の飲食および百薬の毒をも消す(清熱解毒・涼血除煩)
・ミリン[気味]甘・辛、温 [帰経]心・肝・肺・脾・胃
[主治]食欲増進、腹中の冷えを除く。薬味の調和を保つ。
・かつお節[気味]甘、微温 [帰経]脾・腎
[主冶]気血を補い、腸胃を調え、筋力を壮にし、歯牙を固くし、腠理を密にし、髪髭を美しくする。
考察 温性のおかずとなっています。五味・臓腑経脈への帰入も良いバランスを保っています。冷えが気になる場合は、ズイキの酢の物よりこのおかずの方が良いと考えられます。食べ比べてください。
イカは、『本朝食鑑』(人見必大著)に「胃を益し、肝を補い、婦人の月経を通し、小児の雀目(とりめ)を治療する」と書かれ、『薬膳・素材辞典』(辰巳洋著)に「養血滋陰作用があり、貧血、血虚閉経、出血、帯下」に用いると書かれており、ズイキ同様、血液に効く食べものです。一般的には、茎の赤い赤芽ズイキが用いられています。
乾燥したズイキを使う場合
ぬるま湯で4時間位戻し、甘辛く煮付けても、ゴマ油で炒めても味噌汁の具として使われても美味しく食べられます。
材料 乾燥ズイキ、スルメ、しょうゆ、みりん、砂糖
作り方 ズイキを3〜4cmの長さに切り、一晩水で戻す。スルメも細く切って、一晩水で戻す(戻し汁はだし汁に使う)。ズイキとスルメはだし汁で煮て、柔らかくなったら味付けをして煮含める。
このほかに、「芋の葉茎めし」というものがある。サトイモの葉を乾燥させてから細かく揉む。茎は霜が降りた後に採り、皮をむいて乾燥してから細かく刻む。葉はそのまま、茎はゆでてから、共に煮立ったご飯に炊き込む。
蓮葉(はちすば)はかくこそあるもの 意吉麻呂(おきまろ)が家(いへ)なるものは芋(うも)の葉(は)にあらし(長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ))
「これが本物の蓮の葉なのですなぁ。なんと豪華なことよ!それに比べてわが家にあるのは似ているようでも、やっぱりサトイモの葉ですわい。」と宴席で大皿の代わりに蓮の大きな葉に盛られた豪華なご馳走を褒める気持も込めて、大げさに驚いてみせ、我家の小さな芋の葉を卑下してみせたものですが、蓮とサトイモの葉の形が似ているところにこの歌の面白みがあります。古代、蓮の花は高貴な美女の象徴とされていました。宴席には主人の妻妃などが接待に出ていたかもしれません。もしそうだとすれば、「イモ」は「妹」を連想させ「素晴らしい女性ばかりですね。それに比べて我が家の妹(妻)は野暮(やぼ)ったくて何とも見栄えがしないことです」と落胆したふりをして満場をどっと沸かせたのでしょう。
我が国最古の処方集、808年の『大同類聚方』に「イモ」の薬方が二ヵ所にあります。一つはタコによる食中毒の治療にサトイモを食べる処方で、所伝者は不明。今日「芋(いも)章(だ)魚(こ)」という、サトイモとタコの炊き合わせた料理があるのも、納得できます。
もう一つはハチ刺されに、サトイモの根、葉、茎を摺(す)りつぶして塗る。という処方で、陸奥国耶麻郡(むつのくにやまごおり)の首(おびと)の所伝薬。隋・唐代の中国では葉を生のまま摺りつぶし、蛇に咬まれたときや虫さされに貼り、また、毒矢の矢傷や腫れものにも塗布しました。根(塊茎)は酢をなすりつけて用いました。
905年に勅撰(ちょくせん)した『延喜式(えんぎしき)』には、正月の最勝王経斉会(さいしょうおうきょうさいえ)の供養料として、僧一人につきサトイモを六合ずつ与えたという記録があります。
当時は一段の畑を牛一頭で犁(す)き、総勢三五人で耕して二石(こく)の芋(いも)種(だね)を植えた。阿波(あわ)国からは忌部(いんべ)(上古、祭祀をつかさどった民族)が作ったタチバナ、ギシギシ、サトイモが、それぞれ一五籠(かご)ずつ朝廷に献上されました。
紀貫之(きのつらゆき)は『土左日記(とさのにき)』(」)(土佐(とさ)日記(にっき))の元日のくだりに「いもじ、あらめも、はがためもなし。かうやうのものなきくになり。」と書いています。この「いもじ」はサトイモの根であるという説と、サトイモの茎を乾燥した芋がら(ずいき)とする説とがあります。サトイモは現在でも関西の雑煮に必ず入れるので、当時も都にはそのような風習があったと思われ、保存食の芋がらならば、船上にもたずさえたはずである。海藻の荒布(あらめ)は、昆布と同様に正月の縁起物だったのであろう。歯固めには齢(よわい)をしっかり固めるという意味があり、長寿を祈って食べるハレの日の食べ物であった。
古式にのっとった雑煮の作り方では、椀の一番下にサトイモを置き、その上に餅をのせ、さらに上置(うわおき)として串アワビ、串ナマコ、大根、青菜、花がつおをのせるが、いつの頃からのしきたりであったようです。
また慶長十七年(一六一二)正月五日には、神龍院で恒例の芋飯を作らせています。芋飯の作り方には二通りあり、子芋を刻んで塩を加え、湯煮してから米とまぜて炊く方法と、米一升、サトイモ一升を丹念に洗い、子芋はそのまま、大きいのは二つ切にして米と一緒にかきまぜて塩を入れ、ふつうの水加減で炊く方法です。
芋がゆに使うのは山芋(やまのいも)(ヤマツイモ)で、単に「芋」といえば家芋(いえのいも)(イヘツイモ=現在の里芋)のことでした。『万葉集』では「宇毛(うも)」と詠んでいます。ジャガイモやサツマイモは歴史の浅い野根です。
なお塊根(かいこん)だけでなく、茎も古くから食用にされていた。正倉院文書に「芋茎(うけい)」とあるのがそれである。
<伝説>
上総(かずさ)の国のある里にたいへん吝嗇(りんしょく)な老婆がいた。まさに筋金入りのケチで、菜っ葉一枚、豆粒一個といえども人に与えたことがない。近所の人は誰も相手にしなかった。ある日、婆がサトイモを洗っていると、旅の僧が「すまないがその芋を少しわけてもらえないか」と声をかけた。婆(ばばあ)は無愛想に「これは石芋さ。堅くて、煮ても焼いても食えやしないよ」といって、わけてやらなかった。
旅僧は黙って立ち去った。婆はやれやれと芋を煮にかかったが、いくら煮ても少しも軟らかくならない。本当に石芋になっていたのだ。あわてて旅僧のあとを追ったが、もはや姿はなかった。この僧は巡(じゅん)錫(しゃく)中の弘法大師だった。
老婆が食べられない芋を井戸に捨てたところ、芽を出して青々と茂った。ただ、できたのはやはり石芋だった。(この種の弘法大師の石芋伝説は、全国各地に点在している)
お月見とは
お月見は旧暦の8月15日に月を鑑賞する行事で、この日の月は「中秋の名月」、
「十五夜」、「芋名月」と呼ばれます。月見の日には、おだんごやお餅(中国では月餅)、ススキ、サトイモなどをお供えして月を眺めます。
月見行事のルーツはよくわかっていません。最近の研究によると、中国各地では月見の日にサトイモを食べることから、もともとはサトイモの収穫祭であったという説が有力となっています。その後、中国で宮廷行事としても行われるようになり、それが日本に入ったのは奈良~平安時代頃のようです。