・ゴボウ
[気味]辛・苦・甘、寒
[帰経]肺・胃・大腸
[主治]強壮、利尿、新陳代謝の促進、血液の循環、通経、大便の通じをつける。(疏散風熱・透疹解毒・利咽消腫)。
・牛蒡子
[気味]辛・苦、寒
[帰経]肺・胃
[主治]乳房の熱腫・風熱の感冒・肺熱の咳嗽・咽喉腫脹・小便大便不利(疏散風熱・利咽散結・袪痰止咳・宣肺透疹)。
牛蒡こそあまからくして平のもの らうさひおこりふるふにぞよき(牛蒡こそ甘辛く平のもの、労瘵、瘧、振るうにぞよき)
ごぼうこそあしびさよハき人によし はのいたミをもとむるものなり(牛蒡こそ足膝弱き人によし、歯の痛みを止めるものなり)
ごぼうたゝようはれものやふうどくしゆ せんきすハぶきいつれにもよし(牛蒡ただ癰腫れものや風毒腫、疝気、咳いづれにもよし)
ごぼうこそかほのいきりをさます也 てあしかなハぬ人によきもの(ごぼうこそ顔のいきりをさます也、手足かなわぬ人によきもの)
ごぼうをはつねにしょくせよくすり也 身をかろくなしとしよらぬもの(牛蒡を発熱に食せよ、くすり也、みを軽くなし、年寄らぬもの)
ごぼうたゝ十二けいミやくつうじつゝ 五ざう六ふのあくもつをさる(牛蒡ただ、十二経脈通じつつ、五臓六腑の悪もつを去る)
(『和歌食物本草』)
ゴボウはキク科の越年草で、ヨーロッパからヒマラヤ、中国にかけて分布し、この辺が原産地とされている。わが国へは、古く中国より農作物として渡来したという。牧野富太郎著『原色植物図鑑』に、ゴボウの品種として滝野川、砂川、札幌別名白茎牛蒡、大浦、堀川別名大和牛蒡、改良一尋大根、梅田を挙げられているように日本で多くの品種が作り出されていますが、外国では余り食べず、中国でも食膳に供する事は稀のようです。ヨーロッパでは根を使わず、新葉をサラダに用いています。
平安時代の「本草和名(918年)」や「倭名類聚抄(927~930年)」にキタキス(岐多岐須)と言う名前でゴボウが初登場します。当時は主として薬用に使われていました。平安初期の法令集であり、習慣や規則、諸国の産物などを記録した「延喜式(905~927年)」には、宮廷で食されている食用作物として、ゴボウの名前は出ていません。丹波頼康(たんばのやすより)著『医心方』(984年)に、牛蒡として記載され、唐代の蘇敬は歯痛、内外の腫れ物、血液の滞留その他多くの薬効を挙げています。唐代の医書には、ゴボウの種子は「悪実」の名ででてきます。
平安中期の「類聚雑要抄(るいじゅうぞういしょう)」の中には、宮廷の献立としてゴボウを用いた記述が登場しています。すなわち、元永元年(1118年)の9月2日、鳥羽天皇が宇治の平等院に行幸された際の御膳に、干物五杯の中の一つとしてゴボウの名があります。この頃から野菜として利用され始めたようです。
一方、成田山新勝寺に伝わる伝説によりますと、平安時代の天慶3年(940年)に、藤原(ふじわらの)秀郷(ひでさと)が関東で反乱(平將門の乱と言う)を起こした平將門を討った時、その戦勝宴にゴボウが出されたとのことです。用いたゴボウは、直根の周り53センチ、長さ75.8センチ、重さ3.75キロもある巨大な物でした(大浦ゴボウのことでしょう)。
江戸時代になるとゴボウは庶民にとって重要な野菜の一つになり、東北から九州まで広く地域で栽培され、多くの調理法の記録も残っています。栽培法については、宮崎安貞の「農業全書(1696年)」に詳しく記載されています。
ゴボウの読み方は、岐多岐須(きたきす)、馬(うま)蕗(ふぶき)(葉がフキに似ていて、馬が好んで食べた事に由来)、旨蕗(うまふぶき)、悪(あく)実(じつ)、鼠粘(そねん)(実が服にくっつく)、牛菜、牛房(牛の尾の意味)とも書きました。悪実は果実に対する漢名で、古人が「その実の形状が悪く、また、指頭ほどの刺(とげ)鈎(かぎ)が多いものでそう呼んだ」とあります。
“牛蒡抜き”とは、ゴボウを土中から引き抜く様子からきているそうです。
漢方ではゴボウの成熟果実を乾燥したものを牛蒡子(悪実)と称して用います。
古書には
「風湿癮疹(ふうしついんしん)(細かい赤い湿疹)、咽喉風熱(いんとうふうねつ)を治し、諸腫、瘡瘍(そうよう)の毒を散じ、凝滞腰膝の気を利す」とあり、解熱、解毒、去痰薬として風邪・咳嗽・咽喉腫痛・痰吐不利・麻疹・癰腫(ようしゅ)・瘡毒(そうどく)などに応用します。牛蒡子が配合された「銀翹散(ぎんぎょうさん)」は腫れ物および切り傷の化膿による急性リンパ腺炎や丹毒や咽喉の病気に用います。
民間では、牛蒡子を煎じて腫れ物・扁桃腺などの痛み、むくみや利尿の目的で使います。特に、丹毒を病んだときによく、また豚の子供の腫れ物などに使って良効です。
体内の老廃物を排泄する“毒消し食品”の一つである。こんな実験があります。
70gのネズミに三種類のえさを与え、4週間後に体重を測定した。
①普通のエサ
②①のエサに発癌物質(赤色2号)を5%加えた
③さらに②にゴボウの繊維質を5%加えた
①の体重は240g ②の体重は150g ③の体重は280gであった。
発癌物質を加えてネズミ②グループの体重は減少したが、ゴボウを加えると普通のエサよりも体重が増えた。ゴボウの繊維質が発癌物質を吸収し、対外に排泄してしまうのでしょう。
・ゴボウに含まれるイヌリンは、腎臓の働きを助けるので古くから利尿剤として使われ、また、アルギニンが性ホルモンの分泌を助け、強精効果があり、力を増し、脳育にも助けとなる。
・ゴボウの繊維は腸を刺激して、消化・整腸・老廃物を流すという働きがある。繊維には特殊酵素も含まれ、腸内の有効菌も育ち易くする。
腸の汚れは万病のもとです。便秘がちの人も玄米にすりゴマをかけ、ゴボウを食べると効果満点。
・鉄分も多いので造血力もあり、貧血予防や美容にも大切な食べ物です。
・腫れ物・むくみ・利尿 牛蒡子2~3gを1日量として煎服(ネブトの口の開かないときは種子を噛み潰してつけてもよいです。また煎汁を付ければ早く開くという)。
・のどの腫れと痛み(咽喉炎、扁桃腺炎) 牛蒡子6g、桔梗・甘草各3gを煎じ、滓を取り去り、ときどき咽に含むとよいです。
・胃癌、子宮頚癌 新鮮な牛蒡の根を煮て食べると、胃癌・子宮頚癌などに対して、ある程度の抗癌作用が期待できます。
・老人の血管硬化、中風予防 牛蒡の根を適量を粥の中に入れて煮て食べると、中風後の半身不随などのよいです。
・風邪の妙薬 ゴボウをすりおろし、熱湯を加え、味噌を入れて飲みます。保温作用もあるので冷え症にも効きます。
・その他に、便秘・利尿・解毒・発汗・むくみ・貧血・強壮・強精など、さまざまな働きがあります。さらに、子宮びらんには、すりおろした汁を脱脂綿に浸し、それを挿入するとよいし、生理不順にも食べるとよいです。
ゴボウの旬 一年中出回っていますが、ゴボウの旬は晩秋から冬です。この時期のゴボウは旨味が一段と濃いです。それに対して春のゴボウは香りが高くて、肉質が柔らかいのが特徴です。また、夏のゴボウはあっさりした香味がします。
・(ひしはなびらもち)
宮中の新年の祝菓子「菱葩餅」は「はなびらもち」ともいい、薄くのばしたまるい餅の中央に、薄いひし形の餅を置き、白い餡(あん)とゴボウを入れて二つ折にする。
菱形の紅色がほんのりと透けて、花びらのように美しい。
菱形は正三角形の底辺を二つ合わせた形で、男女の結合を意味します。これに白餡を置き、男根の象徴のゴボウを包むのは、まさに陰陽の合体。子孫繁栄を寿ぐ祝菓子である。
・キンピラごぼう
材料:ゴボウ1本、人参1/3、レンコン半分、昆布だし、ゴマ油大さじ1、酒小さじ2、砂糖大さじ1、しょうゆ大さじ1、刻み赤唐辛子1
作り方:ゴボウ、人参、レンコンをそれぞれ刻み、フライパンにゴマ油を強火で熱し、最初の水切りしたゴボウ、レンコンを加え、しんなりすれば人参を加えて炒めあわせる。調味料を加え、汁気がほとんどなくなるまで炒め、あわせ器に盛る。
各食材・調味料・薬味の四気・五味・効能
・ゴボウは、甘味があり身体を冷やす性質がある。効能は、強壮、利尿、新陳代謝の促進、血液の循環、通経、大便の通じをつける。
・レンコンは、甘味があり身体を冷やす性質がある。効能は、胸苦しさを除き、胃を開き、食滞を消し、酒毒および蟹毒を解し、産後の古血を散らす。また、利尿作用と共に便通をよくし、体内の老廃物や毒素を排泄する。
・人参は、甘味と辛味があり身体を温める性質である。効能は、気を下し、腹中を補い、胸膈・腸胃を利し、五臓を安んじ、人の食を健やかにする。
・昆布は、甘味と鹹・酸味があり身体を冷やす性質がある。効能は、積堅を破り、水腫を利し、瘰癧を消す。
・ゴマ油は、甘味があり身体を熱する性質がある。効能は、熱毒を下し、大・小腸の調子をよくし、虫毒を解する。
・酒は、甘味、苦味と辛味があり、身体を温める性質がある。効能は、少量では神経を興奮させ、血液循環を増進させ、薬力の発揮を促進する。鳥魚・蔬菓の毒を消す。
・砂糖(白)は、甘味があり、身体を冷やす性質がある。効能は、心肺部を潤化し、酒毒を解す。
・しょうゆは、鹹味と甘味があり少し冷やす性質がある。効能は、一切の飲食および百薬の毒をも消す。
・トウガラシは、辛味があり身体を熱する性質がある。効能は、香辛料として胃液分泌を増進し、食欲増進。身体を温める。
<考察>
食材のゴボウとレンコンは寒性の性質ですが、薬味の熱性のトウガラシや調味料の温性の酒・熱性のごま油により、また、炒めることにより温性になります。
五味は全てに配されています。臓腑経脈へは全てに帰入しています。
ゴボウとレンコンは食物繊維が豊富で、身体によい食材で解毒の王様です。寒性のゴボウ・レンコンに調味
料と薬味を加えることによって温性となり、美味しいおかずとなります。
ゴボウの通便作用に、レンコンの胃腸を丈夫にする作用が加わり、ゴマ油が便通によいので胃腸を保ちながら便秘解消できます。ニンジンはビタミン成分が豊富で体力を作ります。
・ゴボウのお茶漬け
材料:ゴボウ10cm程度、ニンジン人参半分、シイタケ2個、新鮮なミカンの皮1グラム(親指位の量)、
作り方:ゴボウ、人参、シイタケ、みかんの皮(陳皮)をそれぞれ千切りにして軽く炒める。それをご飯の上にかけて、わさび、ノリ、さけ(鮭)をお好みで加えてお茶をかけるとできあがり。
各食材・調味料・薬味の四気・五味・効能
・ゴボウは、甘味があり身体を冷やす性質がある。効能は、強壮、利尿、新陳代謝の促進、血液の循環、通経、大便の通じをつける。
・人参は、甘味と辛味があり身体を温める性質である。効能は、気を下し、腹中を補い、胸膈・腸胃を利し、五臓を安んじ、人の食を健やかにする。
・シイタケは、甘味があり平性の性質である。効能は、風邪を治し、瘀血を除き、気を補益す。抗ガン作用があり、免疫機能を強化する。
・陳皮は、辛味と甘味があり身体を温める性質である。効能は、気の巡りを良くして消化吸収を促進、余分な水分を除き、痰を収める。
・ゴマ油は、甘味があり身体を熱する性質がある。効能は、熱毒を下し、大・小腸の調子をよくし、虫毒を解する。
・ご飯は、甘味があり身体を温める性質がある。効能は、五臓を補い気血を益し、百病を治します。
・お茶は、苦味と甘味があり身体を冷やす性質がある。効能は、頭目を清くし、熱気を破り、気を下す。食べ物を胃と五臓に導く。
<考察>
このお茶漬けは、身体を温める働きがあります。五味は薬味によって調和が保たれており、苦味ゴボウ・お茶・陳皮が配され、臓腑経脈は全てに帰入し、特にお茶によって五臓に行きわたるようになっています。
風邪をひいてしまった時に体を温め、咳を止め、熱を下げ、体力を回復します。
みかんの皮は、漢方では陳皮といい、風邪によく使われる漢方薬です。痰を取り除き、気管支の痙攣を緩和するので咳、肺炎に効果があります。ワサビは強い抗菌力を持ち、抗ウイルス効果もあります。シイタケは多糖体を含み、免疫力を増強します。人参はビタミン成分が豊富で体力を増強します。風邪、咳止め、解熱、体力回復、二日酔いによいです。