カラスビシャク、半夏(サトイモ科)Pinellia ternate BREIT.の塊茎の外皮を除去し乾燥したもの
半夏(はんげ)
[気味]辛、温
[帰経]脾・胃
[主治]胃内停水があって、その上逆による悪心・嘔吐・咳嗽・心悸・頭痛・急性胃カタル・咽喉腫痛・妊娠悪阻・不眠症(燥湿化痰、降逆止嘔、消痞散結)。
夏の半ばに黄緑色の奇妙な花をつけます。地下に白い小さな球があります。塊茎(かいけい)がへそのようで栗の形をしているので“ヘソクリ”の別名があり、畑仕事の折、これをとりたくわえ、それを売ってはヘソクリを作ったといいます。
五月の中旬ごろから十月ごろまで、葉をつぎつぎに展開させ花茎を抽(ひ)き、地下にある球根を肥(ふと)らせます。これを掘り取り水洗いしたから塩水(3%)に入れ、芋を洗うようにして皮をむき、塩気がなくなるまで水洗いをし、日光で乾かします(水洗いをする時手が痒くなるので注意)。生薬の「半夏(はんげ)」です。
古代中国の薬局方である『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』下品に収載される薬物です。胸のつかえや吐き気を止め、胃内停水や悪阻(つわり)を目標に小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、小柴胡湯(しょうさいことう)(力湧仙)、などの漢方処方に配剤されます。
和名は、仏炎包(ぶつえんほう)を付けた独特の花茎の形によります。似て非なるに烏(からす)を冠したのでしょう。この苞(ほう)は、非常に特徴があって、この仲間のミズバショウ、ザゼンソウ、コンニャク、ウラシマソウなどの、サトイモ科に属するものに共通しています。
苞の中に1本の肉質の軸があって、苞の中ほどまでは雌花群を形成し、その上は雄花群が花軸に密生しています。
軸の先はさらにのびて、むち状の付属物となっています。
葉の基部にむかご(種子ではないが、繁殖できる器官)ができ、むかごでも増殖するので、畑一面に見られます。
古名は、『本草和名』ホゾクミ(保曽久美)『延喜式』カタホソ、漢名は地文、水玉、守田など。俗名は地方名はツプロコ、ヘブス、カブラブス、クリコ、ヘビス、ホゾクリ、ヘソクビなど。これほど多くの呼び名をもった薬草は他になく、古い時代から人々に親しまれていた証(あかし)でしょう。原産地は中国大陸のどこかでキビ、アワ、ヒエ、ムギ、オカボ(陸苗)、サトイモ、ニラなどの畑作物に混入して一緒に日本に渡来した雑草です。
半夏微寒 熱(ねつ)痰(たん)胸(むね)に ふさがるや 吐逆(とぎゃく)喉(のど)はれ 痛むにもよし
半夏をば 熱湯に七度 洗いつつ 生姜つきまぜ 日にほし焙(あぶる)
(橋本竹二郎訳『新編和歌能毒』)
先人は「半夏は気を補い、水を去る。故によく嘔吐、腹中雷鳴、咳逆等を治す。また、咽痛を治す。」と言っており、鎮嘔・鎮吐・鎮静・去痰薬として、胃内停水があって、その上逆による悪心・嘔吐・咳嗽・心悸・頭痛・急性胃カタル・咽喉腫痛・妊娠悪阻・不眠症などに応用される。
ただ半夏一味をそのまま服用するとエグ味が強く、チクチクと口中や喉を刺すような感じになり、反って嘔吐を促すので、通常は生の生姜と一緒に用います。