カタクリ
「もののふの 八十娘子(やそおとめ)らが 汲(く)みまがふ 寺井の上の堅香子(かたかご)の花」
(大伴家持 万葉集巻十九 4143)
(大勢の若い娘たちがやってきて、入り乱れるようにして水を汲んでいるが、井戸の傍に咲くかたかごの花の美しいことよ。堅香子」とあるのは、片栗のことである。傾いた籠状の花という意味のようです。)
カタクリはユリ科の球根性多年草。まだ、ほかの草木が茂らない林の中に、恥ずかしそうな風情で花を開くやさしい花なのです。花茎の高さは20~40㎝。中央の下部に一対の長楕円形で紫褐色斑のある葉をつけ、花は径4~5㎝で、6枚の花被片は同形で披針形、花の中心部は濃紫色W字紋で飾られた可憐な花です。
地上に出ている部分の寿命は短い。花が散ると2ヶ月ほどで地下の球根にでん粉を貯めこみ、溶けるように消えてしまいます。鱗茎は柱状披針形で親指大。栗の実を半分に割った形に似ているので片栗の名があり、そのでん粉が片栗粉です。
このような生態をもつ植物たちを春植物(Spring ephemeral春の短い命)と称している。ときに群生し、花を一斉に咲かせるとギフチョウが花蜜を求め飛び交い、花の中心部にに向かって舞い降り、花被片基部の蜜腺から分泌する蜜を求めつつ花粉媒介をする。雄しべは長・短3本宛。雌しべはそれより更に長く、柱頭浅く3分岐。自家受粉できない花の構造をもつ代表的虫媒花。中国吉林省東部、朝鮮半島、日本の九州、本州、北海道、樺太に分布。
・下痢・嘔吐・胃腸カタル 昔から薬用として大切にされてきましたが、子供の下痢・嘔吐、大人の胃腸カタル・湿疹などには、カタクリ粉を水で溶き、火にかけて煮ると透き通ってくるので、これを食べると効きます。味付けはしょう油少々か、ハチミツ少々に塩を入れて、うすい甘味をつけるとよいでしょう。
・湿疹 カタクリ粉に水を加え練り、熱は加えないで糊状にして塗ります。
・冷え症・胃腸障害 体を温め、消化吸収を助けるので、本物のカタクリ粉は大変効果があります。
3~5月頃の若葉はやわらかいので、熱湯をかけて食べてもよく、味噌汁の実、ゴマ和え、酢味噌あえ、クルミあえ、からしあえあんど、あくがなく素朴な味で美味しい。
鱗茎は、天ぷらや味噌煮にします。味噌煮は、油で炒めたから、みりんと水どき味噌をととのえます。
山国の人々は、片栗の球根を焼いて食べるという。茹で栗みたいでうまいらしい。きんとんにも使う。片栗の葉にはわずかな甘味があり、やわらかなので、これも春の味である。熱湯で軽くゆがけば、浸し物、和え物によく、天ぷらにしてもいい。花も二杯酢などにすればおいしいと聞いた。
6月ごろに掘り出した球根は、皮を除いて石臼で砕き、水を加えて木綿袋に入れ、漉してから数回水洗いして乾燥すると、純白の光沢ある粉末が得られる。これが本物の片栗粉で、嫌な匂いや味もない。指の間にはさむとキュッと音がする。品薄で高価だから、いま市販されている片栗粉は馬鈴薯や甘薯が原料の偽者になってしまった。
本物の片栗粉は、でん粉としてすぐれており滋養にも富む。そしてこれが「片栗でん粉」という名の生薬である。老人や子どもが下痢をしたときなど、これを葛湯のようにして与えるのが昔ながらの滋養補給だ。胃腸の弱い人の整腸剤としても穏やかな効果がある。またベビーパウダーの代りにも用いた。夏に多い湿疹などには、これを患部に塗ってやると痛痒いのが止まる。