“梅は百花の魁(さきがけ)”といわれるように、春早く百花に先がけ、清楚で気品の高い花を咲かせます。まさに“春”を感じさせる寿木です。
菅原道真の歌、「東風吹かば 匂いおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春なわすれそ」が有名です。
「むめ一輪 いちりんほどのあたたかさ」 服部(はっとり)嵐(らん)雪(せつ)(蕉門古参の高弟)の句も有名です。
凍りつくような過酷な寒さがつづき、ある日、ふと目にとまったのがウメ一輪。待っていた春の風情に心がほころびます。が、日増しに暖かくなるだろうと気を緩(ゆる)めていると、急な寒波の襲来です、寒の戻り。芭蕉の句に「梅が香(か)に追いもどされる寒さかな」とあります。
ウメは中国原産のバラ科の落葉樹。我が国へは奈良時代に渡来したとされ、初めは薬用に使われる烏梅、次いで生木が入って来たようです。
梅実
[気味]酸、平
[帰経]肝・脾・肺・大腸
[主治]上に昇った気や滞った気を下し、局所に偏在する熱をとり、胸や腹が一杯詰まって胸苦しくなる煩悶のもとを除き、心臓の働きを安らかにする作用がある。
疲労回復・血液浄化・食欲増進・胃腸障害・老化予防・美容・情緒安定に効果がある(生津止渇・斂肺止咳・渋腸止瀉和胃)。
未熟な果実を収穫して放置すると、青酸ガスを放出することがあるので注意が必要です。
本草書人見必大著『本朝食鑑』に「生梅を多食すれば、津液(つば)が上に溢れて嘔吐や膈病(つかえ)を発(おこ)す。これは梅の酸が脾胃を蝕(しょく)する故(ため)である。甚だしいと歯を損じ筋を傷(そこな)うが、これは肝腎を傷う故である。塩で和して食べれば害は少ないであろう。これはつまり、塩梅の相和する理であろうか。糖蜜に和して食べれば少し害がある。これは酸は急、甘は緩であって、相反する故であろうか。大抵、梅を食べて歯に酸がしみて痛む場合、胡桃肉・氷糖を噛むとよい。」
梅花
[気味]酸・苦、平
[帰経]肝・肺・胃
[主治]ほくろやニキビを治し、上焦の邪気を清くし、吐や渇を止める(舒肝和胃)。
酸・苦の味は、能く肺胃の気血を収斂する。したがって、上焦の熱毒を清くし、中焦の吐・渇を止めるのである。梅や桃杏の花の煎湯で顔を洗うと、顔の肌がつややかになるばかりでなく、ほくろやニキビの類をも取り去る。
梅干し
[気味]酸・鹹・辛、平
[帰経]肝・脾・胃・肺・腎・大腸
[主治]邪を除き、熱を消し、鬱を開き、渇を潤し、胸膈の煩悶および酒毒を除き、咽喉の腫れ痛みや口瘡を癒やし、一切の食毒・魚毒を解す。熱腫(熱のためにできた腫れもの)・悪瘡を治す。
お粥に梅干は病人食の原型みたいなもので、丹波康頼(たんばのやすより)著『医心方』(984)にも「梅は三毒を断つ」と出てい
ます。食・血・水の三毒を清掃する物質と説いており、つまり食中毒・日射病・水当りに効くというわけです。これらの働きは酸・鹹・辛の三味の働きによるものです。
紫蘇の葉で色づけした梅干が庶民の生活に広まったのは江戸時代に入ってからで、紫蘇のもつ精神安定効果もプラスした庶民文化の一つといえます。
完熟一歩手前の青梅を塩で漬けて水が上がったら取り出し、日干ししてから紫蘇の葉を加えて再び漬け、
紅く染まってから天日干しして仕上げるのが日本人の考えついた独特の漬け物の一つ。
中国の梅干しは、日本と異なり、梅を直火で焼いた物。また漬け梅は塩漬けして日干しするのは同じですが、
干した物を甘草水に漬けてから干し上げたものです。
・梅は、酸味があり平性の性質である。効能は、疲労回復、血液浄化、食欲増進、胃腸障害、老化防止、美容、情緒安定。
・塩は、甘味と鹹味があり冷やす性質がある。効能は、脾胃を調和し、食べ物を消化し、食中毒を解す。
・シソは、辛味があり身体を温める性質がある。効能は、身体の中の冷えを温めてこれを気として発散し、心身ともによみがえらせ、魚毒を解す。
梅は数ある果実の中でもクエン酸、ピルビン酸、コハク酸など、良質の植物性有機酸をたくさん含んでおり、この有機酸そのものは酸性だから、胃や腸では酸性反応を示して病原菌を殺す。しかし腸から吸収されて血液に入るまでにはアルカリ性に変化して血液のアルカリ性を高め、循環を整えるのです。
4、梅酒
[気味]甘・酸、温
[帰経]肝・脾・肺・心・胃・大腸
[主治]痰を消し、渇を止め、食を進め、毒を消し、咽痛を止める。疲労回復によい。
(江戸期のやり方)半熟の生梅の中くらいのを、早稲草(わせわら)の灰汁(あく)に一晩浸し、取り出して紙で拭(ぬぐ)い浄め、再び酒で洗ったものを2升用意する。これに好い古酒5升・白砂糖7斤を合わせかきまぜ、甕(かめ)に収蔵(おさ)める。二十余日を過ぎて梅を取り出し、酒を飲む。あるいは、梅を取り出さずに用いる場合もある。年を経たものが最も佳い。梅を取り、酒を取りして、お互いにどちら用いる。
(現在のやり方)傷のない青梅を1~1.2kgを水洗いし、完全に水気を切ってから、ホワイトリカー1.8ℓと氷砂糖400gに漬けて、冷暗所で半年~1年間熟成する。
5、梅酢
[気味]酸・鹹、寒
[帰経]肝・肺・腎・脾・胃
[主治]諸瘡腫・腹の積塊を消し、痰水・血病を追い出し、魚肉菜や諸虫の毒気を消す。
完熟または完熟一歩手前の青梅を塩に漬けて2ヶ月後ころの上澄み液を梅酢として保存する。
6、烏梅(うばい)
[気味]酸、平
[帰経]肝・脾・肺・大腸
[主治]健胃薬。慢性の下痢にもよく、慢性病で口が粘っている時、・風邪を引いた時の発汗や解熱に、咳や痰、腹痛に(斂肺止咳・渋腸止瀉・生津止渇・安蛔止痛)。
烏に梅で烏梅と読むが、これは未熟で、自然に落ちた青梅をかごに集め、わらを燃やした煙を当てて薫製にするか、青梅にすすをまぶしたものを薫製にして作ったものです。外面が真っ黒で、こわれやすく、ほぼ2~3㎝の球形で、荒いしわがあって酸味が強い。ウメという樹木が日本に入る以前に、この烏梅が中国から薬用として入ってきています。
効用
風邪に
・梅干し1~2個をガス火で金網にのせ、黒くなるまで焼き、熱いうちに茶わんに入れて熱湯を注ぐ。ジュウと音を立てて梅干がくずれるが、これを湯ごと熱いうちに飲みます。
・梅干1個と数滴のしょうゆとショウガの搾り汁少量とを湯のみに入れ、熱湯を注いで熱いうちに服用し、布団を厚くして床についていると汗をかいて解熱します。
・生の梅の果実をおろし金ですり下ろし、布で汁を搾り取り、土鍋で気長に煮詰め、黒い飴状(梅肉エキス)のものを作り、発熱の際に湯に落として1日3~4回服用する。熱が下がり、胃腸にも効果があります。
胃腸に
・梅酢は吐かせる薬として有名であり、食べ過ぎて吐かせたい時は、梅酢盃2杯ほど一度に服用します。
・夏季の激しい吐き下し、腹痛嘔吐、下痢(腸炎、食物中毒性胃腸病を含む)に、適量の梅酒を飲むか、あるいは酒に漬けた青い梅1個を食べると、嘔吐止め、痛み止め、下痢止め、腹くだし止めに効果がある。食あたりの予防、腹痛・下痢に用います。
・頭痛に、梅干しの肉の部分を数個、コメカミに貼ります。
・動悸に、梅酒盃1杯を服するとよいです。
・疲労回復・健康保持に、1日1回食べると梅干しに含まれるクエン酸により疲労回復によいです。
・梅酒も疲労や暑気あたりを防ぐので、大人1日1回30ccを限度に服用するとよいです。
梅干し考察 四気は平性、五味は火(苦味)以外全てに配合され、帰経も火(心・小腸)以外は全て配合されているバランスのよいおかずです。夏季・梅雨時には欠かせない効能をもっています。(「三毒を絶つ」といわれ、血行不良、水分代謝障害、消化不良を予防する効力があるのは、酸・鹹・辛の三味の働きによるものです。)
梅は数ある果実の中でもクエン酸、ピルビン酸、コハク酸など、良質の植物性有機酸をたくさん含んでいます。この有機酸そのものは酸性だから、胃や腸では酸性反応を示して病原菌を殺しますが、腸から吸収されて血液に入るまでにはアルカリ性に変化して血液のアルカリ性を高め、循環を整えるのです。
梅核エキス作り方
以下は、太宰府地方の武蔵寺というお寺に古からの秘伝法である。
梅は、必ず黄色に熟した物(完熟)を使う。
①灰(木や紙を燃やした灰)一升を、水一升に入れて澄んだアク汁をとっておく。これで梅3kg分になる。アク汁に一昼夜漬けた梅を、翌朝上げてよく水切りして、35度の焼酎一升に約2時間漬ける。
②焼酎から上げたら、湿ったまま塩をまぶしてビンに漬けなおす。塩の量は20%ぐらいにして重石をする。
③約2ヶ月後、梅雨もあがる頃に取り出して肉を外し、種子を割って核を取り、それぞれ梅酢と一緒にミキサーにかけ、液状の内に裏ごしすると、皮の部分だけ除去できる。核と肉は別々にする。
④乳液状になった物を、ホーローびきの流し箱のような容器に薄く入れて、真夏の強い日光で乾燥濃縮する(時々かき混ぜる)。
⑤ペースト状になったら核と肉を全部混ぜ合わせる。
不慣れな内は、冷蔵庫(10~15度)におくと失敗しません。二ヶ月経つと腐敗しなくなります。
果肉と皮 | 核 | ミキサーでペースト状に | 裏こし | 天日乾燥 |
梅拾い:先に引用した『和漢三才図会』には「半黄」の梅を用いるとあるが、ここでは完熟して地面に落ちた梅を早朝拾い集める。「アサメシ前に梅一荷といってテンビン棒にフゴなどをつけて運んだ。落ちたばかりの梅の実は、黄色く色づいて触るとまだ硬い。
へつらはぬ枝の強さよ梅の花(海舟)
幕末の志士、勝海舟は梅のしたたかな生活力を愛したといわれる。伐れば伐るほど芽を出し、枝を伸ばす梅。その枝ぶりは素朴で野趣に富み、孤高の高ささえある風情が、いのちを燃やす青年の共感をよんだのだ。そして寒風のさなかに咲き出す梅の花に、未来への希望を見出したのかもしれない。