原産地は、中央アジアのキルギス地方と言われていて、日本には中国を経由して、奈良時代頃にはもう伝わっていたとされています。
球根の強烈な臭気は、葷(くん)(五葷はネギ科ネギ属の植物であるネギ、ラッキョウ、ニンニク、アサツキ、ニラ)を代表し、ヨーロッパでは門口にこれを並べて、悪霊の侵入を防ぐといい、東洋でも同様の風習が見られました。
和名の「ニンニク」は仏教用語の“忍辱(にんじょく)”からきています。「忍辱」とは菩薩が涅槃の彼岸に至るまでの六つの行、六波羅蜜(ろくはらみつ)(忍辱(にんにく)・布施(ふせ)・持戒(じかい)・精進(しょうじん)・禅定(ぜんじょう)・知慧(ちえ))の一つで、諸々の屈辱、迫害をも忍受してうらまないことを意味します。禅寺にはよく、“葷酒山門に入るを許さず”という石柱が立てられています。葷とは五葷を指し、ニンニク・酒を筆頭にそれらの物を禅寺に持ち込むことを禁止したものです。
また、「東坡志林(とうはしりん)」には「僧は酒を般若湯といい、魚を水梭花(すいさんか)といい、鶏を鑚籬菜(さんりさい)という。人は不義をすることあると、これを飾るために美名を用いる」と記されています。忍辱はニンニクの隠語であったわけです。
[気味]辛・温
[帰経」脾・胃・肺・大腸
[主冶]疲労回復や滋養強壮、免疫力を高める効果狩、ガンの予防にも効果的です。その他、血行をよくするので、冷え症や動脈硬化や血栓の予防にも効果がある(温中健脾・止痢・駆虫・辛温散寒)。
蒜(にんにく)はからくうんなり目のどくぞ しょくをけすなりおこりにもよし(にんいくは辛く温なり、目の毒、食を消すなり瘧にもよし)
にんにくハくハくらんはらのいたミとめ ときやくやはらのくたるにぞよき(にんいくは霍乱や腹の痛み止め、吐逆や腹下りぞよき)
にんにくは脾胃すくやかにするものそ ようはれものやかさちらすなり(にんにくは脾胃健やかにする、癰(よう)や腫れ物や瘡(かさ)ちらす)
にんにくハはなちをとむるものそかし くだきてあしのうらにむるべし(にんいくは鼻血を止めるものぞかし、砕いて足の裏に貼る)
にんにくハきをくだしつゝ風をさる すごししょくせははくはつとなる(にんいくは気を下しつつ風を去る、過ごし食せば白髪となる)
にんにくをひさしくこのミしょくするな はいかんやぶれたんをしやうする(にんいくは久しく好み食するな。肺肝破れ痰を生ずる)
(橋本竹二郎訳『和歌食物本草』)
主成分のアリシンは、ビタミンB1の分解酵素アノイリナーゼの作用を抑制し、B1を活性化させ、体内からのB1の損失を防ぎますが、注意したいのは、生食は胃腸の弱い人はさけることです。また、肝臓の弱い人はより注意が必要です。効果の強いものほど自分の体力や体質に合った使い方をしないと、逆効果となることもありますので慎重に扱う必要があります。
・ニンニクをすりおろしてハチミツと古酒を入れ煮つめ、ドロドロになったものを少しずつ食べると、強壮剤として病後や老年期の人に効があります。
・蒸して、しょうゆに漬けたり、みその中に入れる、あるいは梅酢に漬けるなどして毎日少しずつ食べるとよい。また病人の栄養食ともなります。
・すりおろしたニンニクとすり白ゴマをハチミツと一緒によく練って、就寝前に茶さじ1杯ずつ服用しつづけると、神経痛、関節痛に効果が出てきます。
『医心方』には次のようなことが記されている。
・薬を服用した日はニンニクを食べないこと
・クコを服用してニンニクを食べると、害はないが両方とも効きめがなくなる
・白髪が白くなる
・なまのニンニクを多食してセックスに励むと、肝臓を害し、顔色を悪くする
・多食は眼によくない
『和漢三才図会』には次のようなことが記されている
・暑気あたりには二~三片を噛みくだき、温湯で呑めばすぐ治る。冷水で呑んではいけない
・肺、脾、肝、胆などの臓器を傷つけ、眼を損じ、痰を生じる
・なまのニンニクと飯酢(めしす)の青い魚を一緒に食べると、腹の中に瘡(かさ)ができる
・蜜とニンニクを合わせてはいけない
・他の薬を服用中は、食べても薬用にしてもだめ
以上は経験的な説で、科学的裏付けはない。
現代中国医学は、ニンニクの抗菌作用や抗原虫作用、生殖細胞、腫瘤、血管系統、心臓などに対する作用、その他を証明し、さまざまな薬効を認めている。
ただし、眼の病気や歯、喉、口、舌の病気のとき、流行性疾患の病後にはニンニクの内服や食用を禁じている。また、いらだちやすく怒りっぽい人、性欲旺盛な人、咳したとき血の出る人、両頬が赤くて湿りけのある人、口が渇く人などの場合も避けるのがよいことも説いており、古代医学との共通点もある。