食べ物の細目

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薬草イラスト

食養生の基礎 しょうゆ(醤油)・たまり

江戸時代の食物本草書『和歌食物本草』に、「しょうゆは平にて味は鹹で熱を去り 渇きを止めて虫を殺す也」、「しょうゆは口中の瘡を治すなり、少しの間、口に含ますとよい」、また、「たまり温で甘鹹く、毒もなし、脾胃を調え、気力増すなり」と、記されています。

江戸時代の本草書・人見必大著『本朝食鑑』には、「気味は 鹹・甘、微涼。(熟用すれば、気を柔らかで冷やす作用が出ない)。 一切の飲食および百薬の毒を解す。台所には一日たりとも無くてはすませることはできないものである」と、記されています。

 

しょうゆ
[気味]鹹・甘、微涼
[帰経]脾・胃・腎
[主治]主として熱を除き、煩悶を止め、火毒(熱毒:化膿性潰瘍や腫毒、疔)を解す。一切の飲食およ

百薬の毒をも解す。台所には一日たりとも欠かすことはできないものである(清熱解毒・涼血除煩)。

 

・大豆は、甘く身体を温める性質がある。効能は、気をおだやかにし、腹中をくつろげ、血を活し、百薬の毒を解する。

・小麦は、甘味があり少し冷やす性質がある。効能は、煩を除き、渇を止め、汗を収め、小便の出をよくし、血を止め、専ら心気を養う。

・麹は、甘く身体を温める性質がある。効能は、消化不良・胃もたれ・下痢(腹のつかえを消し、食を消化し、鳥魚の毒を解す。

・塩は、甘味と鹹味があり冷やす性質がある。効能は、脾胃を調和し、食べ物を消化し、食中毒を解す。

しょうゆは温性の大豆と麹、寒性の小麦と塩によって四気は平性から涼性(微涼性)となっています。五味は甘味がほとんどですが、塩の鹹味によって甘味を抑えています。臓腑経脈の全てに帰入しており、食材を全ての臓腑経脈に運ぶことができ、また、全ての食材の解毒にも役立ちます。

 

醤油平あぢしハはゆくねつをさり かハきをとめてむしころすなり(しょうゆは平にて味は鹹で熱を去り 渇きを止めて虫を殺す也)

しやうゆこそ口中のかさ治する也 しばしはくちにふくえてぞよき(しょうゆは口中の瘡を治すなり、少しの間、口に含ますとよい)

しやうこそすぎてハ胃のふそんじけり はらのいたミてくだるものなり(しょうゆは過ぎると胃を損じ、腹痛みて下るもの也)

たまりうんあましハはゆくどくもなし ひゐをとゝのへ気りょくますなり(たまり温で甘鹹く、毒もなし、脾胃を調え、気力増すなり)

たまりこそしょびやうにさのミたゝりなし すぎてハむしのおこるものなり(たまりこそ諸病にさのみ祟りなし、過ぎては虫のおこるものなり)

                                        (『和歌食物本草』)

 

効用

・火傷に、しょうゆを救急に用いて塗ると、痛みを止め、火傷を和らげます。

・手指の腫痛に、しょうゆおよび蜂蜜を温めた後、指を伸ばして浸せば、痛みを止め、腫れを消す。

・毒虫、蜂さされに、しょうゆを塗れば解毒する。

・「鯛の刺身」を食する場合のしょうゆの役割を考えてみましょう。

・鯛は、甘味く身体を温める性質がある。効能は、人体を益し、五臓を補い、腹中を温め、気血を滋(ま)す。鯛は「陰中の陽」であり、足の太陰、厥陰、少陰に入って気を益し血を補うが、多食すると、火を動かし熱を生じるものである。鯛が肝腎脾胃の温補の剤である。

・しょうゆは、鹹味と甘味があり少し冷やす性質である。効能は、一切の飲食および百薬の毒をも消す。

・ワサビは、辛味く身体を温める性質がある。効能は、魚毒を消し、胃液分泌を盛んにして消化を助ける。

・シソは、辛味があり身体を温める性質がある。効能は、身体の中の冷えを温めてこれを気として発散し、心身ともによみがえらせ、魚毒を解す。

人見必大著『本朝食鑑』に「鯛は「陰中の陽」であり、足の太陰、厥陰、少陰に入って気を益し血を補う(鯛が肝腎脾胃の温補の剤である)が、多食すると、火を動かし熱を生じるものである。」とあります。刺身を食べる時には、しょうゆやワサビを入れてシソで包んで刺身を食べるとよいです。

鯛の刺身をたくさん食べると胃に熱が付き腹部の膨満感を生じやすくなります。しょうゆをつけることによりその熱を和らげ、シソによって魚毒を解し、ワサビで魚毒を解し腐食を予防します。なお、しょうゆには魚毒を解す働きもあります。理にかなったとり合せです。

 

・しょうゆ・たまりの製造法の違い

こいくち醤油は大豆と小麦が半々ですが、たまり醤油は大豆のみで製造します。そのため他の醤油に比べ、うまみ成分が多く味が濃いです。

「醤油」の文字が登場するのは室町時代ですが、それより数百年前の平安時代には醤油のルーツといわれる「醤(ひしお)」がつくられていたようです。

醬は、当時の塩蔵発酵食品の総称で、草びしお、肉びしお、穀びしおの三種類に分かれていました。穀びしおが醤油のようなものだと言われています。

溜(たまり)と呼ばれる調味料が現れるのは、鎌倉時代になってからです。

 

「たまり」と「しょうゆ」は、根本の部分でも異なります。
鎌倉時代に中国から日本へ径山寺(きんざんじ)みそ(金山寺みそともいう)が伝わり、その製造過程で桶の底にたまった汁で食物を煮ると大変美味しいことが発見されました。この「たまり」こそが醤油の原点と言われています。偶然ともいえる発見に高温多湿の日本の風土と先人の知恵が加わって醤油が誕生したのです。
私たちが日頃「しょうゆ」と呼んでいるのは「こいくちしょうゆ」のことで全国各地で生産されているしょうゆ消費量の約80%を占めています。
これに対して「たまり」は愛知・岐阜・三重の東海三県だけで生産されています。原料を比べてみると、「しょうゆ」は大豆と小麦がおおよそ50%ずつ、小麦のおかげで香ばしい香が特徴です。「たまり」は大豆がほぼ100%。香はおだやかで、旨味があります。
仕込みに使う水の量は「たまり」は「しょうゆ」の50%~80%位と少なく、この差が「たまり」独自のトロリとしたコクのある味となっているのです。その上「たまり」は一年以上かけてゆっくりと熟成させてあるため、大豆と塩が良質の水と見事に融和してまろやかな味となります。その証として「しょうゆ」よりも濃い色合いが生まれるのです。

一般的に「濃口醤油」より「薄口醤油」のほうが塩分濃度が高くなっています。濃口醤油の塩分濃度は重量比で約15パーセント、薄口醤油は約16パーセントです。醤油の色は麹を加えて発酵、熟成をする間にどんどん濃くなっていきます。淡口醤油は濃い濃度の塩水を加えることで、この発酵・熟成を抑えて、さらに熟成期間も短くして淡い色合いに仕上げています。そのため、淡口醤油の塩分濃度は高くなっているのです。また、淡口醤油は多くの場合、仕上げに甘酒や水飴を加えて甘みをつけてあります。

「薄口醤油」とは通常の醤油(濃口醤油)より、色がうすい、醤油の香りが控えめ、な醤油のことを指します。

関西生まれの醤油で、京料理など、素材の「色や持ち味、香り活かして仕上げたいとき」に使用されることが多いようです。たけのこの煮物やお吸い物、関西風のおでんなどに使われます。

一方、全国的に使われている濃口醤油は豚の角煮やぶり大根など、青魚や肉の臭みをおさえてコクを出したいときにおすすめです。