ハコベ 繁縷 Stellaria media Cry. ナデシコ科
[気味]甘・鹹、平
[帰経]―
[主治]一切の積年の悪瘡・下血によい。塊痛を止める。塩ハコベとして歯槽膿漏によい。葉・茎をおひたし、煎汁を飲むと血を清浄にして産後の肥立ちをよくする妙薬(清血・解毒・利尿・催乳)。
蘩蔞へいとしひさしくもいへさりし かさのくすりぞつねにくふべし(はこべは平、慢性の治らない瘡(皮膚病)の薬となり、常に食べるとよい)
はこべこそちごのあ はらとむる也 又はさんごのふるちやぶるぞ(はこべは幼児の下血(腸炎)をとめ、産後の古血を排除する)
はこべた丶かさはれもの丶あくちさる 又せうべんをとむるものなり(はこべは皮膚病や腫れ物を軽快させ、小便頻尿を止めるなり)
はこへた丶さのミどくなきものなれど ひさしくふな血のへりやせん(はこべはそんなに毒はないけれど、久しく食べると貧血となる) (『和歌食物本草』)
島崎藤村
「子諸(こもろ)なる古城のほとり 雲白く遊子(いうし)悲しむ 緑なす繁縷(はこべ)は萌えず 若草も籍(し)くに由無(よしな)し しろがねの衾(ふすま)の岡邊 日に溶けて淡雪流る あたたかき光はあれど 野に満つる香りも知らず・・」
と詠みました。
場所は、長野県佐久市千曲川のほとり。「繁縷は萌えず」とは、これから伸びようとしながらも、未だ縮こまっている生態なのでしょう。
日本海側の富山で雪を掘り起こし地面を見ると、雪に押えられながらも緑色をしたナズナやハハコグサ等と共にハコベが蕾を着けて現れます。
ハコベは乾燥に弱いが寒さには強く、冬期間中にも花を咲かせます。
花は午後2時頃より咲き始め、午後4時ごろには閉じてしまいます。
茎は繁縷(縷:糸のように細く長いもの)といわれるように糸の様に絡み、淡い紫褐色を帯びています。
茎の片側には白い軟毛が下を向いて一列に並び、茎頂に花を着け、側芽が出て枝となり分岐します。
花弁は二深烈した花弁は5枚。自家受粉すると、花柄を下に向きに伸ばし果を吊(つる)します。
4-5日も経つと、再び果柄を上向きになり熟し、やがて果を開裂させて、径約一ミリの茶褐色の種子を放出します。
ハコベは栄養価が高く、タンパク質・カルシウム・鉄などのミネラルが豊富に含まれ、サポニン・葉緑素・酵素などと共に、未知の成分も多く、大きな薬効を持つ野草です。
胃腸を健やかにするのはもちろん、催乳にも効果があり、浄血作用もあるため、漢方では陰干して、産前産後の浄血や、母乳の出をよくするために服用します。
また、生のハコベは盲腸炎にも特効があります。利尿剤にもなり、脚気にも効きますが、なんといっても歯槽膿漏や虫歯予防に大きなパワーを発揮します。
・産後の浄血・催乳・肥立ち促進:全草15g、タンポポの根5gをいっしょに煎じて飲みます。
・利尿:全草10~15gを煎じて飲みます。
・健胃整腸:葉茎の生のしぼり汁を飲みます。
・盲腸炎:生薬のしぼり汁を盃2~3杯、30分~1時間おきに数回の飲むと、化膿していない盲腸炎なら腫れが引き、痛みが無くなります。乾燥葉を濃く煎じて飲んでも効果があります。
・歯痛:葉を生でかみしめると痛みが治まります。
・歯槽膿漏:ハコベエキスを歯ぐきに塗るか飲みます。1週間くらいでゆるんだ歯ぐきがしまり、歯を抜かなくてもよくなります。乾かした葉を煎じて飲んでも同じ効果があります。
・貧血・低血圧:血液の浄化と共に造血を助ける細胞に活力をつけるので、低血圧、無気力などにもよい。
「塩ハコベ」の作り方は、粗塩を焙烙(ほうろく)で炒り、そこに乾燥し粉末にしたハコベを少しずつ入れます。焦げない程度の炒れば出来上がり(塩:ハコベ=3:1)。
・若葉は野菜になり、新鮮で柔らかく、甘く歯切れがよいが、3月以降は次第に固くなる。
・若白髪:新鮮な若菜を炒めて野菜料理を作る。
・葉・茎をおひたし、汁の実にして食べると催乳効果がある。
・お粥・お浸し・和え物(全草):刻んで粥に入れたり、塩を少し加えて茹でてお浸しにしたり、ゴマ和え、味噌汁の実、バター炒めにする。
・可愛い花付きサラダ:さいの芽に切ったリンゴと混ぜてドレッシングをかけるとよい。